木曜ミステリー〜消えた封筒と証言の矛盾を追え〜

 2013年12月19日(木)午前11時頃

奥さんが唐突に叫ぶ。

奥さん「私、今○○(会社名)から調べもの頼まれとるで、土曜か日曜の夜にここに来たんやて。郵便受けに封筒4つくらい入ってたから玄関に置いといたんやけどアンタ見た?確か控えが送られてきとったけど、その控えがファイルに挟んどらんのやけど!?」
次長「昨日は4つくらい封筒あって持ってったけど、月曜は知らんなー」
奥さん「昨日やなくて日曜の夜やから月曜やろ!?」
次長「だから昨日玄関の辺りにあったのは持ってったけど、月曜は知らんて」
奥さん「じゃあどこ行ったの!?控えやから大事なもんやろ!?」
次長「そんなこと言われても、月曜に届くような控え送っとらんはずや。昨日届いた控えは市役所の受付日が月曜やし」
奥さん「でも絶対あったもん。どっかやったんやろ!?」
よくわからないけど、そのまま口論突入。

奥さん「猫野さんは見てない!?ここ(玄関先)に封筒!」
私「え。あーーーー……そういや見ました。封筒4つ。玄関じゃなくて裁断機の辺り(玄関先から5歩移動した場所)で」
奥さん「ほら、猫野さんも月曜に見たって言うとるやろ!」
私「え。月曜……だったかはわかりませんが」
それから更に奥さんと次長さんの口論激化。

30分後。

次長「おまえが曜日勘違いしとるだけやろ」
奥さん「えー、そうかー?……じゃあそうしたるわー」
なんやかんやで終息した模様です。


 そして二人が去った昼休み。
とんだ巻き添えを食らって気になったので、先輩にも聞いてみた。

私「先輩はさっき話に出てた封筒って見ました?」
先輩「あーー……なんか昨日見たわ。4つほど」
私「ああ、やっぱ昨日ですか。さっきは曖昧でしたが、私も昨日の朝に裁断機の近くで見たんですよね。それで控えだから、控えのファイルに挟もうと思いましたが、次長さんが出した申告書の控えっぽい、なおかつ月曜に『控え送りますー』って電話があった市役所からのっぽいから、勝手に綴じちゃいかんわと、ファイルの上に置いといたんですよね。それから朝掃除終わってから見たらもうなくなってたから、次長さんが持ってったんだなと」
先輩「やっぱ裁断機のところにあったの?……私は昨日玄関先にあった封筒を、次長さんの机に置いたよ」
私「ん?……じゃあ次長さんが裁断機のところに戻した??」
先輩「わざわざ?」
私「うーーん……じゃあ封筒4通ってのは、2回あったんですかね。奥さんが玄関先に置いて、月曜に先輩が玄関先から次長さんの机に置いた1回と、昨日私が裁断機から控えファイルに移動させて、次長さんが回収した1回と」
先輩「でも次長さんは封筒4通の組み合わせは昨日の1回だけだって言ってるし、私が玄関から持ち出したのは昨日だよ。そもそも私月曜日休みだったから」
私「ああ、そうでしたね。うーーん……月曜封筒が4通あった覚えないです……」

通常なら届いた控えは控えのファイルに綴じる。
しかし今回は綴じられていない。奥さんもそれに気付いたから次長さんに聞いた。
もし4通が1回来たか2回来たかはファイルに綴じられた控えを見ればわかるはずだけど。ファイルを見ると、そもそも今月届いたと思われた控えが1枚もない。

控えの申告書を作ったのは次長さんだと思うから、控えもファイルでなく次長さんが持っているのかもしれない。
次長さんの机を確認すると、控えがありました。日付から察するに昨日届いたもの。そして内容は私が月曜に送りますと電話を受けた市役所からの控え。
その控えが入った封筒2通に、事務用品店からのダイレクトメール1通。労働局からの封筒1通。うむ。
私「私が昨日見た封筒はこの4通ですよ」
先輩「え。私が見た封筒もこの4通で間違いないよ!?」
私「!?」


 証言を整頓整頓。

次長さん:先週市役所に送った申告書の控えが昨日届いた。受付日が月曜だから、控えが月曜に戻ってくるはずがない。
その控えを含む4通の封筒は昨日は見た。月曜に封筒は見ていない。
4通の封筒は玄関の辺りに置いてあったのを持って行った。
控えはファイルに綴じず、自分の机で保管。

奥さん:土曜か日曜の夜に、○○の調べもののために事務所に来た際、郵便受けにあった4通の封筒を玄関先に置いた。
よってそのまま月曜の朝まで、玄関先に封筒があったはずだ。

先輩:昨日、玄関先にあった4通の封筒を次長さんの机に置いた。月曜は休みだったから、昨日で間違いない。

私:昨日、裁断機近くにあった4通の封筒を見つける。控えが入っている封筒かつ、月曜に市役所から電話があったものだと判断。控えを綴じるファイルの上に置く。

先輩と私が移動させた4通の封筒は同一のもの。
ただし、玄関先、裁断機、控えのファイルは徒歩10歩圏内と3箇所は近く。次長さんの机は玄関からは離れている。
控えが最終的に次長さんの机にある以上、先輩によって玄関先から机に運ばれた封筒が、再び玄関側の裁断機近くに戻されることはまず有り得ない。

 奥さんが運んだ封筒はどこへ行ったのか。私たちが見た封筒と一致しているのか。
玄関先という点は奥さんと先輩の証言が一致しているけど曜日が違う。
次長さん、先輩、私は曜日と封筒の内容が一致。
次長さんの言う玄関近くに、控えファイル付近が含まれていそうだから、私が置いた封筒を次長さんが回収した流れは一致している。
でも先輩は同一封筒を玄関先からゴール地点である次長さんの机に移動していると証言。

 一致する点も多いけど証言が噛み合わない。
実は噛み合っていないようで噛み合う状態が存在するのか、誰かの証言が間違っているのか。


 悩むこと15分。

先輩「あああ!?そうだ……私も猫野さんと同じで、封筒が次長さんが出した申告書の控えって気付いたんだ。それで、うわこれ勝手に移動させたらまずいかもと思って、一度は次長さんの机まで来たけど玄関辺りまで戻って元通り封筒置いといたわ」
私「……あ。私も思い出しました。奥さんが○○から調べものを頼まれたのは今週月曜の話です。だからそれより前の土曜や日曜の夜に、その調べものために事務所に来るなんてことは有り得ません。そして火曜日は次長さんが休みでした」


 事の真相。

12月13日(金)
次長さんが市役所に申告書を送る。

16日(月)先輩休み。
奥さんが○○から調べものを頼まれる。
次長さんが送った申告書が市役所到着。控えを送るという市役所からの電話を私が取る。

17日(火)次長さん休み。よって届いていた市役所の控えは郵便受けに入ったまま。
夜。奥さんが○○の調べもののために事務所に来る。気紛れにしか郵便受けを見ない奥さんが気紛れを起こし、郵便受けから上記控えを含む封筒4通を取り出し、玄関先に置く。

18日(水)
出勤した先輩が玄関先に放置された封筒4通を次長さんの机に運ぶ。が、途中で次長さんが送っただろう申告書の控えであると気付き、下手に動かしたらいけないと元通り玄関の辺り……裁断機近くに戻す。
直後に出勤してきた私が裁断機近くの封筒4通発見。控えなら綴じようと手に取ったものの、月曜に電話を受けた市役所の控えと気付く。勝手に綴じちゃいけないけど、最終的には綴じるはずだからと控えファイルの上に封筒を置く。
先輩と私が朝掃除中、次長さんが控えファイルの上の封筒4通を自分の机に持っていく。
私、掃除後に封筒が無くなっているのを確認。

19日(木)
自分が控えの入った封筒を玄関先に置いたことを唐突に思い出した奥さん。通常ならファイルに綴じられているはずの控えが無かったため、どこにやったんだと騒ぎだして冒頭へ。



 つまり、奥さんが最初に発した「“土曜か日曜”の夜に事務所に来た」の曜日が間違っていたという、正に昼前に次長さんが言った「おまえが曜日勘違いしとるだけやろ」が大正解だった訳であります。
さすが結婚40年強ですか……。

そこに先輩と私による封筒移動やら何やらが加わって、妙にややこしくなってしまっただけって話。



結論:自信満々に断言するけど、奥さんの記憶はまったく当てにならない。

教訓:放置された封筒には触らない。









 本日の添付は『モノマネを練習中のマーク・ギニール』
女装と言い張る序盤。