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風に添う音色は歌う

何だかんだ言ったって多分、無駄なんだ

するり、逃げるお前に手を伸ばしてもー…


穏やかな天候は心地良く

授業の早く終わった今は、ただ緩やかに過ぎるばかりだ

さて、何をしようか…?

そう思った矢先だったー…

「勇音っ!」

馴染みきった声が俺の耳に届く

振り返ればパタパタと緑の首布を靡かせコチラに向かう幼馴染みが視界に映る

勇音「颯刃、どうした?」

立ち止まり、颯刃が追い付いてから声を掛けてやる

ニコリといつもの笑みを浮かべて颯刃は口を開いた

颯刃「今、暇してないか?」

勇音「まぁ…暇だな?」

取り立てて予定の無い俺は少し考えてみてから話した

すると、“良かった”と言わんばかりな笑顔を向けられる

颯刃「ちょっと、付き合ってくれないか?」

はぁ!?

…などと驚く事は随分昔に無くなっている…

勇音「で、何処に行くんだ?」

再び前を向き歩き出す俺に颯刃は笑顔で並行する

颯刃「美味しそうな店、見付けたんだよ」

喜々として話す辺り、さしずめ和菓子屋でも見掛けたのか…

勇音「良いよ、付き合ってやる」

了承を得た颯刃は嬉しそうな顔をすると早く早く!と俺の腕を取り街へと走り出したー…

ーーーーーーーーーーーーーー

久々にゆっくり歩く街は活気があり、充分な復興を思わせる

廃墟でなければこんなにも人で賑わう普通の世界があるのだ

チラチラと道行く人の視線を感じる

不思議に思い辺りを見た俺は原因に思い当たった

勇音「…しまったな…」

何分授業終了後で直接来てしまった為、俺達は学園の制服のままだった

それはまだ良いのだ

何よりもー…

颯刃「今日は気持ち良いなぁ〜…」

数歩先を進むコイツが問題なのだ

コイツが持つ…刀

訳の解らない首布はまだしも、真剣を引っ提げて歩く高校男子はそうは居ないだろう…

俺がうむむ…と刀に視線を向けて居ると

颯刃「…あ、あったあった!」

脳天気に目的地を見付け、颯刃は喜んでいた

昔からコイツは果てしなく緩い性格をしている

当時小学生だった俺ですら

刀と首布を毎日身に着けて来た同級生は印象深いモノだった…

奇特なモノを見る視線も、異端だと陰で囁く声も颯刃は知っている

知っていて、アレだけ気にせず笑っているのだ…

勇音「…大物と言うか…図太いと言うか…」

半眼でそんな事を呟くと、店先に移動していた颯刃に呼ばれてしまった

颯刃「どうしたんだ?」

勇音「いや、何でも無い!」

ハハハ、と苦笑し誤魔化すと、店の中を覗く

勇音「………鯛焼き?」

季節外れな気もする甘い香りの魚が店で焼かれている

どうやら焼きたてが売りの様だがー…

颯刃「そうそう、この時期って食べたくなってもなかなか売って無いんだよ…」

唐突に食べたくなるから困るんだよなぁ?と苦笑する

勇音「本当にお前らしいよ…」

つられてコチラも苦笑する

無論、貧乏学生に贅沢は厳禁な訳で、俺は1個だけだぞ?と颯刃に念を押した

ーーーーーーーーーーーーーー

颯刃「夕華に怒られそうだな」

勇音「すぐ食べれば平気だろ?」

颯刃「そうかな?」

やる事も無くなった俺達は近くの公園へと足を延ばした

結局、颯刃の手には白い紙に1つの鯛焼きが収まっている

“お土産も買いたかったんだけど”と苦笑する颯刃に俺は“また今度な”とだけ言って我慢させた

流石に人数分買える余裕は無いのである

…何だが虚しい話だな…

そこまで考えて、颯刃が食べるのを躊躇しているのに気付く

勿体ぶった所で皆に分配出来ない事は明白なのだが…

勇音「食べたらどうだよ?」

颯刃「ん?…ん〜…」

勇音「冷めたら不味いぞ?」

焼きたてが売りなら温かい内の方が良いに決まっている

颯刃「…それもそうだな」

美味しく食べなくては作った人にも物にも悪い

そう言って“いただきます”と口にする

颯刃「……美味しい!」

ニコリ、と笑う様子を相変わらず数歩後ろで俺は見ている

歩調を合わせても良いんだが、数歩後ろの方が危機回避を促しやすいモノだ

月影さんもそうなのだろうな

背の高い従者がちょっと心配そうに付いて歩く様はかなり目にしていたモノだ…

颯刃「あ」

不意に颯刃が足を止め

ふわり、風が揺らぐ

その拍子に颯刃の首布が俺の肩に掛かった

指先でソレを取ろうとした時だった

颯刃「勇音!」

くるりと颯刃がコチラに振り向く

勇音「何だ?」

応えると同時にズイッ、と鯛焼きを差し出される

勇音「……………」

颯刃「……………」

微笑して差し出すという事は食べて見ろと言う事か…

勇音「あ、ありが…」

颯刃「ほら、口開けて!」

………は…?……

普通に受け取ろうとした手が空中制止する

コイツはまさかアレか?

フリーズした思考に追い打ちを掛けられる

颯刃「ほら、あ〜ん?」

…馬鹿かコイツは…

何が悲しくて健全男子学生が穏やかな午後の公園でそんな事をしなくちゃならんのだ!!?

猛スピードで逡巡するも、目の前で期待する視線にはかなわなかった…

渋々口を開ける

颯刃「はい!」

少し噛み切った味は程良い甘さで美味しかった

颯刃「…これで共犯だな?」

悪戯っぽく“にっ”っと笑う颯刃に、してやられた事に気付く

勇音「おまっー…」

捕まえようと伸ばした手を、するり交わして颯刃は笑いながら走り出した

距離が広がる

多分、コイツに何を言っても無駄なのだ

何時だって笑いながらひらりひらりと軽快に交わされる

その癖すぐ近くでそっと共に歩んでいるのだ…

くるり、とコチラを振り向き笑う緑

そっちが挑発したんだからな?

「…見てろよ…?」

足に自信の有る俺は小さく呟き不敵に笑った

駆け出す体は風を切る

何度だって手を伸ばしてやる

風を捕まえようとする姿は無謀だろうか?

笑い合いながら駆けて行く

そんな今も良いじゃないか…

何時からそんな余裕なのかも忘れたよ


だってほら、お前が傍に居るんだからー…
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