最後♀ガイちゃんは幸せそうに消えていったけど相変わらず救いがない



ガイは幽霊となってジェイドに取り憑いてから、薄情だなと思う事はあれど嫌いになる事は出来なかった。
真面目で、研究熱心で、少し厳しい所もあるけど、それはジェイドが教育者として真剣に生徒と向き合っているからなんだなとわかると好きだなという気持ちが膨らんでいく。

いくら話しかけてもこちらの声は聞こえないし、いくら正面に立っても目が合う事もない。それを逆手に取って、眠っているジェイドと触れる事のない唇を合わせたり、横に並んで眠ってみたりした。

これが生きてるうちに出来たならどれだけ幸せだっただろう。
後悔の念が、好きになればなるほど積み重なっていく。

やがて、ジェイドの周りで異変が起きる。
ジェイドに話しかける女性たちに不幸な事が起き始める。といっても、突然服のボタンが取れたりビーカーが倒れたりする程度だった。
それらの現象は、ガイが羨ましいと感じる時に起こっていた。
まさか、偶然だ。そう思いたくても、己の胸中で渦巻く嫉妬の念は徐々に大きくなっていき、起こる現象もだんだん酷くなっていく。

さすがに一度お祓いにでも行ったらどうだ。
見かねたピオニーがジェイドに助言しているのを聞いた時、もう自分は悪霊の類であるのだと、目を逸らし続けていた事実に涙を流した。

霊的なものを全く信じていないジェイドはお祓いに行くのを面倒に感じていたが、ダメもとで状況が良くなるなら一回行ってみたらいいじゃないかと、勝手に予約をしたピオニーに連れられてお祓いに行く事になる。

お祓い前日の夜、ガイは嫌だ、消えたくない。ずっと一緒に居たいんだとジェイドの胸で泣きじゃくる。どうして見てくれないんだ、どうして声が聞こえないんだ。いくら叫んだ所で現状は変わらない。ジェイドには自分が見えない事実も、自分が他人を不幸にする悪霊である事実も、何一つ変わらない。

翌日、ガイは憔悴しきった顔でジェイドと共に神社に来ていた。
儀式が開始され、自分が徐々に消えていくのがわかる。
このまま何も叶わないまま消えていくのか、そう思うととても苦しかった。
伝わらなくても、せめて、伝えたい。

好きだった。ずっと、最初は一目惚れだったけど、死んで、側でジェイドを見てきて、もっと好きになった。愛してる。ずっと。

ガイの告白が終わる瞬間、ジェイドと目が合った。

やっとこっち見たな

ジェイドの瞳には、泣きながら自身に向かって笑顔を浮かべる女性の姿が一瞬だけ映った。
驚いて口を開くが、女性はすぐに空気に溶けるように消えていき、そしてお祓いが終わった。

お祓いが終わり、どうだったと聞いてくるピオニーに「幽霊は存在するのかもしれませんね」と返すと「なんだ、なんか見たのか」と興味津々で聞いてくるピオニーを軽くあしらう

ピオニーと別れたジェイドは、花屋で花を買い、あの日、ガイが亡くなった事故現場に来ていた。あれからもうだいぶ経っているから、ジェイドの他に献花している者はいない。ジェイドは手を合わせるでもなく、ただそこに花だけを置いて帰っていく。

あの日からずっとジェイドの後ろをついて行っていた幽霊の女性の姿は、もう居ない。