ダアトでガイの記憶が戻ってからルーク達が礼拝堂で話しかけるまでの妄想突発文


アリエッタの強襲によりダアトの街中で戦闘が起こり、その結果イオンを庇ってアニスの母パメラが倒れてしまった。

ジェイドがアリエッタを捕らえ、皆がパメラを心配している中、ガイだけが恐怖に怯えた瞳でその光景を見ていた。

「…思い…出したっ!」

膝をつき、背を丸めて苦しそうに胸を押さえるガイの呼吸は酷く荒く、それが通常の呼吸ではいのは大きく上下する肩の動きからも見てとれた。

顔を青くし、恐怖でぼろぼろと涙を流しながら全身を震わせているガイの様子を心配して走り寄ろうとするルークだったが、その前にジェイドに名前を呼ばれて立ち止まった。
「ルーク、まずはパメラさんを安静な場所に運んでください。ガイはおそらく一時的なパニック障害でしょう。しばらくしたら落ち着くと思います」
「…わかった。」

ルークがパメラを運び、それを心配そうにアニスが見守りながら着いていく。治癒が出来るティアとナタリアも後を追った。
残ったイオンが「ジェイド」と名前を呼び、心配そうにこちらを見ていた。

「アリエッタはトリトハイムに引き渡してください。彼なら礼拝堂に居ると思います。それと、この時間ならそう人も居ないと思うので」
そう言ってイオンは視線をガイに向けた。

「わかりました。」
「僕達はパメラの無事を確認して、ガイが落ち着く頃に礼拝堂に向かいます。あとは、よろしくお願いします」
イオンは一礼してから駆け足でアニス達の元へ向かった。

「…だ、そうです。聞こえてましたね」
ガイはまだ話せる状態ではないのか、大きく頷く事で返事をした。
「立てますか」と尋ねると、震える手が伸ばされる。ガイの脇に手を入れ引き上げると、ガイはジェイドの腕にしがみつくようにして立ち上がった。

少女を捕らえ、男を引きずるようにしながら礼拝堂へと向かう。
最初は歩きづらかったのだが、ガイも少し落ち着いてきたのか、歩くうちに腕を掴む力も弱くなってきた。呼吸は依然として荒いままだが、それでも最初に比べて落ち着いてきた方だろう。

礼拝堂に入ると、ガイはジェイドの腕を離し、少しふらふらとした足取りで邪魔にならなさそうな所に座り込んだ。今度は崩れるようにではなく、祈るように。

アリエッタをトリトハイムに引き渡したジェイドは、ガイの側に立つ。
ガイは以前、家族が死んだ時の記憶がないと言っていた。今、祈るようにしている事から考えて、思い出したのはおそらくその時の事だろう。

ガイの方から、嗚咽を殺したような声が時折聞こえてくる。その声には、悲しみよりも後悔の念が込められているようにジェイドは感じた。

(…私は、泣けなかったな。)

恩師が死んだ時、救えなかった後悔の念は自分にもあった。けれどそれだけだ。泣くことも、祈ることもしなかった。
まだ救えると諦めていなかったからなのかもしれないが、それを既に諦めた今、いくらあの日の事を思い出しても涙は出てこない。祈ろうにも、死を理解していない自分には何をどう祈ればいいのかもわからない。ただ目を閉じて、私塾に通っていた頃を思い出す。

少しして、後ろの扉が開く音がして目を開く。視線をガイの方にやるとガイも気付いたようで、手の甲で涙を拭い鼻を啜って、心を落ち着けるように息を吐いた。

(症状は、落ち着いているみたいですね)

呼吸の乱れも体の震えもすっかり落ち着いたようだ。
心配そうに、だが遠慮がちに近付いてくる足音を聞きながら、ジェイドはルーク達が話しかけてくるのを待った。