繰り返し伸ばした指先が、君に触れる事は有るのだろうか?
彼は世界を幸福にする事を、望んだ。
彼は彼女を救えない事を、知った。
彼は大切なモノを取り返すと、誓った。
彼はもう一度相対する事を、決めた。
彼は世界を壊してでも生きると、足掻いた。
彼はその手を汚す事を、選んだ。
彼は全てが意味の在る無意味と、感じた。
彼は。
そう『彼』は、
一体『誰』だったのだろうか?
時系列的にも博士が崩壊の引き金を引いたのは多分正解。
純然な好意が無意識の悪意になる
それは無邪気と呼ぶには代償が大き過ぎた話。
でも、トリガーに指を掛けたのは博士だけでは無かったから……
時同じくして引き金を引いた両手が打ち落としたのは『神』に似て非なる存在。
3つの掌が、引き起こした『災厄』
銃を用意したのは選択。
弾を込めたのは欲望。
なら、果たして悪の根源は世界平和を望んだ愚者だけだったのか?
引き剥がされた命と数列。
狭間の中で、彼は変質した。
純粋な存在から、異端児へと……
起点に立ち返る完全世界に似た円の結界を廻る。
孤独の中で挑んだ彼は繰り返し繰り返し選択を増やし、減らした。
やがて彼は所長の椅子に祭り上げられ、汚れた手を更に濡らす。
真っ白の白衣を翻し、倫理の先へ歩む。
産み出した命が道具であると、彼は知っていたから。
この汚れた両手が、救いたかったモノを救えないと知っていたから。
まっさらな場所から有を造り出す。
片方が壊れるのも想定内、
片方が裏切るのも想定内。
何も持たなかった彼等に与えられた枷。
知っているソレは、偽物で、
感じているソレも、偽物で、
信じてみた虚構が、本物だ。
彼は『カミサマ』に縛られて、愛憎の感情は嘘臭い。
彼は『役割』に囚われて、愛しい感情を受け入れた。
シナリオを壊して演じて、塗り潰す。
全ては大切なモノを奪い返す戦い。
たった一人で謀叛戦、騙してみせても嘘は無い。
繰り返した舞台を変える為に、
決められた運命をすり替えて、選択の先へ堕ちていく。
逃げたした行動は想定内。
交わった選択は想定外?
イトに絡まれた翼を動かして、数式の果てに挑む。
芽生えた探求心は善悪を越えて、やがて世界を飛び越える。
燃える焔が消えた時、彼はもう一回を望んでみた。
理不尽な現実は利己的な選択の結果。
ならば理不尽な利己的選択を以て撃ち壊す。
英雄よりも戦犯者を選び取り、彼は未来を選び棄てた。
誰かが汚れなくてはならないから、彼が選んで幸福を棄てた。
最小犠牲になる気は無くても、都合の良い犠牲は否定する。
彼は『普通』の選択を嫌った。
だからこそ、対峙するイトに結ばれる。
彼は知っていた。
いつか閉じる世界なんだと。
狭い世界で死に逝くモノだと。
彼は選択した。
綺麗な掌では救えないから、
この手を汚す業を。
そして彼は、今日も笑った。
彼は、彼は、望んだ。
生きていたい、と、望んだ。
無理だと、無駄だと諦めた。
そんな彼の背を押したのは、
紛れもない優しく冷酷な掌だった。
きっと『彼』を誰かは呼ぶのだ。
『主人公』と……