世界崩壊の幻覚を視た。











漣ルート革変エンド分岐より





ベッドフォンからノイズ混じりの声が聴こえた。



「一馬君……もう、世界は……救えない……」



勝手に弱気になるのは勝手だが、巻き込まないでくれよ。



「確定してしまったんだ……もう、変える手立てが……」



また良い歳して涙声のオッサンにうんざりしながら、暗い空を見上げた。

大きな鉄の鳥達が群をなして飛び回る。
落とす卵は茸雲を上げて、爆音を上げて、産まれる惨劇。



「私のせいだ……私の……だから……」




乾いた耳に馴染んだ音が一発。
声が途切れてノイズだけが流れる。

何時かの再現。



項垂れる頭、足元の瓦礫。

耳に入る音、


「まだ、終わりじゃ無いでしょう?」


俺の知ってる声を真似て流れた戯れ言に身体が弾けた。

握り締めた携帯、走り出した先は目覚めた女神。

弾丸を掻い潜って、人波掻き分けて、
縺れる足を前へ、前へ。



「君が望んだ世界じゃないか」


煩い、と叫び倒して息を切らせて辿り着いた場所。

群がる大人に牙を剥く。


「邪魔すんじゃ無えぇぇぇぇぇッ!!」



叩き付けた端末機、繋がる情報。
起動選択を、選んで喚いた。




「こんな世界、ぶっ壊してくれよ!!」



異次元へ笑い、飛び去った鴉へ。
ウタゴエが謳い、紡ぐ言葉。




瞬間、背中越しに衝撃。
被弾した傷を痛いと感じる前に、内側から熱が溢れ出す。


「か……はっ……」



望んで、望まぬ選択へ。

それは



「如何にも、人間らしいとは思わないか?」



遠退く意識に、鴉が笑った気がした。














解説


最終選択で、漣は世界の革変を望みそれを達成する。

達成の暁に斎は三次元世界線を越え、本来の世界へは二度と戻らなかった。

革変した世界線上、漣が目にしたのは『自然摂理の法が活きる世界』

強い力を持った者が生き残る世界。


知覚能力者とガーディアンを恐れた政府は諸とも灰塵に帰そうとばかりに無差別な攻撃を行使する。


無線通達をしていた博士も悔いを嘆きながら政府軍の凶弾により絶命。


自動ダウンロードされたデータは漣のナノマシンに反応、音楽製造アプリを立ち上げる。


組み立てられた合成音は他人染みた自分の声とかつて絶命した自分の半身を模して語る。

託されたデータはウタゴエの起動プログラム。


逃げ惑う人を、崩れる瓦礫を、襲い来る敵を、凪ぎ払いながら進んだのは、漣が知るウタゴエの在処。


ウタゴエの回りには政府軍の大人達。
ヴォイスプロジェクトを強制施行せんと群がり探る中に飛び込む。


たった一基のウタゴエが放った力。
背後から撃たれる身体。


理想と現実の差に、
選択と未来の差に、叫んだ青年の声。



世界線を越えて、唯一見知った存在へ望まれた選択。


斎は笑った。

自分で選んだ未来に絶望して嘆き悔やむ、人間の生き方を。

そして鴉は羽ばたいた。