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ヘンリエッタとアイして生きる



ヘンリエッタは、数奇な運命を生きる女性である。

いや、ある意味彼女はもう既に死んでいる。

人間として死んだ彼女は姿を変え生き続けているが、それはやはり彼女とは言えないのか、どうか?



まぁ、そんな話は良いんだよ。
ヘンリエッタ、君は君だ。

そして今、君は俺だ。


ヘンリエッタ、もしくはヘラ。
君は幾つもの加工で人間とは言えなくなってしまった。

でも、安心して?
俺も人間とは言えないから。


不死に殖え続ける、それは今や無限に等しい空白として俺に宿る。


手術台の上、眺めた天井から降り注ぐライトの光。

麻酔の効いた左目の膜を輝くメスが裂いて、ヘンリエッタと1つになった。


君はアイ。
それは『俺(i)』

君はアイ。
それは『左目(eye)』

君はアイ。
それは『感情(love)』



HeLa、君は細胞の一つで俺の一部だ。


永久の空白に宿す、世界数値。
何時かの為に、誓いの為に。


充たす焔は蒼白く揺めき灯る。
照らすのは約束された死か、はたまた予期せぬ物語か。


此の身へ宿れ、此の身を充たせ。
あの子へ宿れ、あの子を充たせ。


ヘンリエッタ、見えるだろうか?

人間では無い身体に流れる赤い血が。
人間では無い身体を焦がすココロが。


俺には見えない。
見えないから、きっとコレは君のモノ。




左目から、零れて流れる水滴は
きっと多分、君のモノ。




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ある世界の歴史、もしくは在りもしない物語

乾いた紙擦れの音が鳴る。
1枚、また1枚と捲られたページは小さく風を起こして静止した。


ページに記されているのは、昔々。もしくは異なる世界線に存在していた女神の話。


全てに裏切られて、棄てられた女性は、憎み、呪い、復讐の女神として生まれ変わった。



「……良く有る話だよなぁ、確かランダもこんな感じだっけよね?」


ランダとは、捨てられた子供達を拾い、愛した女性。
彼女もまた絶望して子供達を喰らう魔女、邪神と化した存在……と、何かの文献で見た気がする。



「君の創作意欲は結構なんだけど、僕に何の利点が無いのは不愉快だね」


何気無い問いの返答は溜息混じりの嫌味。
今更気にも止めない事だ。


単調な音が響く。
青紫の瞳はただ文献の文字を追い、その脳は抽象的で曖昧な女神の姿を探求する。


「復讐と結婚は紙一重、って事かね」


閉じられた本と同時に呟かれた言葉に、青い瞳が怪訝そうに視線を投げた。


「うん。まぁそんな感じ?」

「いや、何が?」

「えっ?」

「え、じゃ無くて。結婚がどうとか言っただろう」


あぁ、と合点がいった顔で頷く。
無意識の呟きだった。


「復讐の女神の名前。並び替えると結婚の約束だから」


「は?」


虚を突かれた顔の仲間を尻目に椅子を引いて部屋を後にした。









白い紙に線が走る。
醜くも美しくも無い、女性の曲線。

長い髪が靡き、その表情は喜びとも悲しみとも見えた。


愛とは、時に酷く身勝手な暴力。
自由とは、時に雁字絡めの束縛。
希望は絶望の別称であり、光とは影と共に起こる現象。


一心不乱に、尖った鉛筆が走る。
ぼかし、汚し、主張する。

やがて現れた女神は、強く優しく柔和な憂いを抱く一人の女性。


「悲劇は女性に注がれるからこそ美しい、ってね」


「男尊女卑?」


いつの間にか後ろに立っていた緑の瞳が睨む。


「違うよ〜、女尊男卑的なやつ?」

「これ、誰?」

「女神様、もしくは一人の女性」

「答えになって無い」

「んん〜……そう言われてもなぁ……
俺のヘンリエッタが視た存在だし?」


そう笑って自身の左目を指せば、異物を見る視線が刺さる。


「何それ……キモイ……」

「あぁ、誤解しないで!?
俺の一番愛してる女性は当然きっ」


言葉が完成する前に、腹部に重い一撃が叩き込まれる。

咳き込む姿すら確認せず、彼女は颯爽と去ってしまった。


「……そこも、好きだけどね……」


目線を動かせば、女神が笑った気がして、苦笑する。


復讐に駆られる程の結婚の約束を、君とならしても良いんだ。

君が不幸を振り撒いて、絶望に引き擦り込もうとしても良いんだ。


「俺は愛してる」


誰も居ない部屋で女神に告白を。



青年は一人、四肢を投げ出し椅子に凭れて笑った。





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