鼎の告白により、死んでいたと思っていた「都筑悠真」が実は生きていたと知る晴斗。紀柳院鼎=都筑悠真という衝撃的な事実にショックをまだ隠せなくて――。



晴斗はこの頃から学校を休学(高校も容認)、よりゼルフェノアと深く関わることになるのだがあの鼎の衝撃的な告白を聞いて以降、悶々とした日々を過ごしてる。

鼎さんとはそつなく話は出来てるが、どこか気まずい…。


晴斗は御堂を探していた。


「彩音さん、御堂さんってどこにいるかわかります?」
「トレーニングルームか射撃場だと思うよ。御堂さん、だいたいどっちかにいることが多いから」


トレーニングルームはまだわかるが、射撃場?

…この本部には射撃場も完備されている。ストイックな一面のある御堂さんなら、射撃場にいてもなんらおかしくはない。



本部・射撃場。そこにひとり、御堂は淡々と片手で拳銃を的に撃っていた。
御堂は銃の扱いに長けているが、射撃場で訓練してるのもある。

「み、御堂さん!」
御堂は人の気配に気づき、銃を撃つのを止めた。そして振り返る。
「晴斗じゃねーか。どうしたよ?」
「ちょっと話聞いて貰いたいのと、銃の使い方を教えて欲しいんです!」


銃だと?



――しばしの間。


「あぁなるほどね。お前…鼎本人から『あのこと』を聞いたんだな。それでまだ受け入れられずにショックを受けてると」
御堂、察する。

「まだあれから2日しか経ってないんですよ!?気まずいじゃないですか…」
「おめーの言いたいこともわかるが、鼎だってずーっと苦しい思いしてたんだぜ?俺は鼎がここ(ゼルフェノア)に入った時からずっと一緒だったから、色々とわかるのよ。俺と鼎はマンツーマンの時期があったから余計にな。…鼎は晴斗に告白するの、相当勇気がいったに違いねぇぞ」
「えっ…」

「晴斗、お前は強くなりたいんだろ?それでわざわざ俺を探しに来たのか」
「銃に関しては御堂さんが詳しいと聞いて…」


御堂は対怪人用の銃を渡す。
「いきなりこれを撃てとは言わないが、銃『も』使えたらかなり有利になる。ヒーローはだいたい銃と何かしらは武器を使うだろ?」

言われてみればそうだ。鼎さんもブレード以外に対怪人用の銃を使ってた。
御堂はぶっきらぼうに言い放った。

「なんなら俺が教えてやる、銃の手解きをな。スパルタ式だから覚悟しな」
「師匠、お願いします!」

「師匠って呼ぶなっ!!いつも通りの呼び名でいいだろが!」
御堂は嫌そうな反応を見せる。どうやら「師匠」というワードが嫌いらしい。



宇崎は鼎が来ていないことを気にしていた。
鼎は数日前に晴斗に自ら「あのこと」を告白したと聞いてたが…。


司令室。


「彩音、鼎に連絡したか?」


「連絡しましたよ。…鼎の声、元気なくて」
「体調不良とは考えられないが、精神的なものかもしれない。彩音、寮に様子見に行ってくれないか?彼女が心配すぎる」

「わかりました」


彩音は本部を出た。



鼎と彩音が出会ったのは9年前。例の12年前の怪人による連続放火事件からほとぼりが冷めた頃。
当時の彩音は怪人被害者支援組織「ノア」にいた。彩音はゼルフェノア隊員をしながらノア職員も兼任していた時期でもある。


この怪人被害者支援組織「ノア」はたった数年で解体されてしまうが、後の組織直属巨大研究機関兼複合施設「ゼノク」へと引き継がれる。


当時の彩音は組織直属施設…というか、怪人による被害で居場所を失った被害者達がいる組織直属の市民用集合住宅を訪れた。
「都筑悠真」改め「紀柳院鼎」に会うために。彼女の話を聞くために。

彩音はカウンセラーのような役目をノアでしていた。


当時の鼎は引きこもっており、心を閉ざしていた。
あの事件で生存したものの、火傷のダメージは大きく事件前のように積極的に外に出ることがなくなってしまう。こんな姿になった以上、人前に出るのが怖い…。

鼎は不慣れな仮面生活に四苦八苦していた。
この当時の鼎はまだ首や手に包帯が巻かれている状態。引きこもっているのもあり、常にフードを目深に被っている。


異様だったのは鼎の部屋だ。昼間でもカーテンを閉め、鏡という鏡を塞ぐか倒していた。とにかく鏡が嫌いだった。


彩音はそんな鼎の元を訪ねる。鼎は最初、心を閉ざしていた。
彩音は根気強く何回も訪れては鼎にコンタクトを試みる。鼎は拒絶反応を見せてはいたものの、少しずつぽつぽつと彩音に話始める。


彩音が鼎の元を訪れてから約1ヶ月。ついに鼎は抑えていた感情を彩音にぶちまける。鼎は仮面の下で嗚咽を漏らした。
彩音は優しい眼差しでよしよししてあげた。

「よく言ってくれたよ。辛いよね、苦しいよね…」
「…全てを失ったんだ…。何もかも。怪人が憎い…!こんな姿になってしまい、生き地獄だ…」

「私に話せたのはなんで?」
「…彩音になら話せると思っていた…」


彩音はこの時、彼女には心の支えがないといけないと感じた。鼎は次第に心を開き、彩音と親交を深めていく。
そして彩音のおかげでなんとか外出出来るまでに回復。だがしばらくは彩音の付き添いなしでは外出出来なかった。



本部周辺・ゼルフェノア寮。彩音は鼎を訪ねる。

「鼎、いる?」
「彩音…?」

声がし、扉が開いた。途中まで本部に行こうとしたのか、制服姿だ。彩音は鼎の部屋へと入った。


「鼎、あれからどうしたの?」
「晴斗に『あのこと』を伝えてから…フラッシュバックがひどくなって…。悪夢も見たが…どう思い出そうとしても…犯人の怪人がわからないんだ…」


犯人の怪人がわからない?鼎は見たはずでは?


「思い出そうとすると記憶にフィルターがかかったようになる。それと激しい頭痛も起きる。激痛だ」
「どう考えても思い出せないってこと…?」

「…わからない……」



本部・解析班。朝倉達は12年前の連続放火事件の防犯カメラ解析を続けてる。


「矢神、何かわかった?」
「当時の防カメは解像度が荒いのあるから難しいですよ〜」
「神さんは?」
「朝倉、怪しい映像を発見した。来てくれないか」

朝倉と矢神は神の元へと行く。それは8件目の都筑家放火事件のひとつ前、7件目の負傷者が出た事件の映像。

「ここ、一瞬なんだが蒼い炎が見えている」
「蒼い炎?」
「どう見ても中級〜上級メギドがやったに違いない」


「上級メギドって…幹部クラス?」
朝倉は眉間に皺を寄せた。
「おそらくな」





第9話(下)へ続く。