母の口から久しぶりに‘キシャメゴ’という言葉を聞いた
‘キシャメゴ’とは竹で編んだ大きめの四角い籠の事
今はプラスチックの籠が主流なので、キシャメゴを見る事もほとんど無くなった
何故、そう呼ぶのか不明だが、恐らく取手のところをひもか何かで繋げれば汽車のようになるからかも知れない
何でも入れる事が出来る
母は若い頃、自転車の荷台にその大きいキシャメゴを縛り、海で採ったアサリを入れ、行商していた
自転車に不釣り合いな大きく重いキシャメゴを自転車ごと川に落とした事もあった
当時は店も少ないばかりか、海辺で取り放題のアサリ貝など店に売ってすらなかったらしい
町へ売りに出ると、これがすぐに売り切れ、客からは母に
「あんたが売る物だったら何でも買う。いっそあんたごと買いたい」
と、言われる程だった
母は髪を振り乱して海辺で貝を採っていた
その内に漁業主から貝採り代を取られるようになったが、それでも問題ないくらい収入があったという
貝採りに夢中になるあまり、擦りきれた薄い服から乳が染みている母を見た漁業主は
「家では赤ん坊がお腹を空かしているというのにあんたは全く!」
と、呆れていたそうだ