〜ヒロインのキャラが作品のための作り物だった場合〜
「無理です無理です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私に傍若無人の暴力俺様キャラなんて出来ません…!」
「えーと、麻美ちゃんやっけ?うちからしたら顔に迫力あるから見た目はぴったりやと思うで」
「人が怖いから顔が強ばるんですっ」
「そうなん?まぁ、始まる前から諦めたらあかんよ。全てギャラのためやって思ったら頑張れるんやから!うちかて優柔不断の秀才キャラにならなあかんから大変やねんけどね」
「…こんな暗そうな人見知りと能天気な守銭奴と仲良くしなきゃならないなんて…。しかも私のキャラなんてただの馬鹿じゃん。マジでやってらんない」
「遥ちゃんもそんなこと言わんといてー。とりあえず役作り頑張ろうや。なっ?」
「秋、あんたが馬鹿キャラに近いからあんたがやればいいでしょ」
「うちもそう思ったけどプロデューサーがそれじゃつまらん言うてたよ。それに馬鹿キャラは天才な遥ちゃんが演じてこそ馬鹿キャラが輝くんやって。天才と馬鹿は紙一重とか何とか…」
「…意味不明。私の才能の無駄遣いさせないで」
「あの、喧嘩は…」
「何よ。聞こえないんだけど?」
「ごごごめんなさい!」
(これ…うちが遥ちゃんキャラで遥ちゃんが麻美ちゃんキャラで麻美ちゃんがうちのキャラやったらまだしっくりくるんちゃうんかなぁ…)
「…とにかくこの仕事を引き受けたからにはしっかりやるしかないじゃないの。読み合わせするよ」
「よしきた!」
「頑張ります…」
「それじゃあ、最初の台詞は麻美だからお願い」
「う、うん。…“あ〜…ダルイ。部活すっげーダルイ。暑いし、ダルイ”」
「(めっちゃ棒読みや…)“そうだね…。それにもう7月だから暑いのは当然だよ”」
「…あの、次の跡部さんの台詞はどうすれば…」
「飛ばして。それくらい察してくれない?」
「ご、ごめんなさい!」
「あ、それやったら次はうちからか。“あ。跡部”」
「“うっせぇ。そんぐらい自分でしろ。私に頼るな”…えっと、“何をだよ。私は素直に言ってる。てか、暑いからとっととあっち行け”…えっとその次が…“あいつ馬鹿だろ?”」
「“うん”(あ、次は遥ちゃんの台詞や)」
「すぅ…“麻美ーーーっ!!!”」
「「!!」」
「早く続き」
「あ、えっと…“アンタもくそ暑い中走って来んな!見てるだけで暑い!!”」
「“うん。確かにね”」
「“ひでぇ!!…でも、聞いて!あたしね、かばっちのためにラブレターを書いたんだ〜”」
「か…“かばっちって…樺地か?だが、テメェは忍足と付き合ってるだろ”」
「“何言ってんの!?付き合ってない!あの変態が勝手に言ってるだけなの!それにあたしには樺地崇弘という夫になる(予定の)素晴らしい人がいるんだ!あの大きい腕とか体とか…素晴らしすぎて語りきれないけど…”」
(こ、これは…凄いわ!めっちゃ凄い!最近この世界に入って来たとは思われへん演技力やん!これ、ただの頭の良いパンピーやないな!)
「…一通り読み合わせたけど、秋はまだ良いとして…麻美。あんた酷くない?やる気あんの?猿でもそんな演技しないんだけど」
「…ごめんなさい。私…その、人の前に出ると緊張して…」
「だったらなんでこの世界に来たの?コミュニケーションもまともに取れないなんて私を馬鹿にしてる?」
「そ、んなことは…」
「まぁまぁまぁ!まだ始まったばかっやし、これからやって!それにうちらが仲良ぅせなこの作品も完成出来んやん。な?しかも、この先うちらのアイドル結成も控えとるみたいやから協力せな!」
「何それ初耳」
「なんか主題歌を歌うことが決定したみたいやで。今のところ一曲のみやけど、需要があるんやったらアルバム出すかもーやって」
「ううう歌とか無理です!」
「私も本読む時間なくしたくないんだけど」
(…なんかうちも不安になってきたなぁ…)
今日の氷帝学園がドラマ化し、ヒロインとなる三人を一般人から大御所含め全国的にオーディションを開催し、選ばれた三人。
麻美
人との接触を酷く嫌い、通信制の学校に入る。家から全く出ない引きこもりで漫画やアニメを見る毎日。ニュースやドラマ、情報番組なども好きでテレビにずっと齧り付いている。
そんな娘を見かねた母がオーディションに受けさせて、少しでも他人との接触を慣らそうとした結果、何故か受かっていて本人よりも一番驚いている。
ヒロイン役を辞退しようとするも親が監視することになり逃げられない。逃げたらテレビや漫画を捨てると脅されて嫌々ヒロインの顔合わせに出席。そして自分の役があまりにも性格が違いすぎて絶望を抱えることになった。
秋
役者歴=年齢の子役時代から芸能界で生きてるも、そこそこの実力がありながらなかなか大きな役は貰えない。関西のみで活動しているのが原因らしく、宝の持ち腐れだと親に言われて今回のオーディションに参加を決意。結果、ヒロイン役を手にすることが出来たので関西から離れて東京で一人暮らしするも、初めての生活と環境に若干戸惑いを覚える。
将来や老後を派手に過ごしたいため、趣味は貯金。そのせいでお金大好きだが、ケチではないものの無駄遣いはしたくない。
自分が演じるキャラに対して、世話焼きな所は似てるかなと思うも、顔合わせの時に麻美と遥の仲をどうしようかと苦労人な所も抱え込む。
遥
学力は常にトップをキープなクール系。騒がれるのは嫌いなのでそれ以上に目立つ行動も取らないため、生徒内で彼女がトップを知る者も少ない。
幼い頃から別人を演じる役者に憧れる節があり、今回の一般人応募可能なオーディションを受けることになった。結果、合格をいただいたので小さい頃からひっそりと演技の練習してしたのが実を結ぶと思う。
しかし、顔合わせの時の麻美を見てコミュ障に演技力もないため何故受かったのか理由が分からず苛立った。
自分が優秀だから真逆のキャラを演じることに不満を覚えるも初めての役ということもあり、彼女になりきろうと真面目な容姿を一変する思い切りもあるので案外乗り気である。
こんな感じで後々アイドル結成される予定。彼女達のマネージャーはオサムちゃん。関西出身ということで秋とは仲が良い。
しかも、取材にてドラマのヒロインはキャラ作りではなく、彼女達の素のまま自然体ということをプロデューサーが豪語したためドラマ関係者以外にキャラ作りをしてると知られてはいけないため、番宣のためのテレビ出演の際もキャラ作りをしなければならず、大きな重荷を三人が背負うことになる。
…ここまで考えて誰得なんだと知る。