監視されてんだ、モグラごときに。
「不気味な歌よね」
久しぶりに出勤してきたフェルは、イヤフォンを外すとそう言った。
「ゲスの極み乙女。ですか?」
「そう。たぶんあの子、あのヴォーカルの子、なにか見たの」
答えてよ。デジタルモグラ。
「監視してるのは、きっと、生まれたのに生きていけなかった命」
「そうなんですか?」
鐘子は訝しげに眉をひそめた。
フェルがよくわからないことを言うとき、解説を求めても結局よくわからないことは多々あった。
ただ、今回は鐘子も贔屓にしている川谷絵音について妙なことを言わないでもらいたかったのだ。
「それの何がデジタルモグラなんです? YouTubeあたりに挙げられちゃうよってくらいに考えてましたけど」
「そしたらまた出てきた。あれに、激写されたんだ」
フェルは手でフレームを作った。
「動画サイト、そうね……。そうかもしれない。鐘子ちゃん」
フェルは少し間を置いた。
「私は、例えば、魂だとかはすべて電気だと思ってるの。あるいは電波、かな」
「はぁ」
「よく、心霊現象が起きる部屋でテレビがついたり消えたりあるじゃない。そんなことができるってことは、霊だとか魂だとか、みんな電波の一種なのかな、って」
「…………もしかして、デジタル?」
鐘子は思った。この人こそ、“電波”だと。
普段は全く喋らないのに、喋り出すとこれだ。
「命たちは、サーバーの中で私たちを見てるのよ」
悩んでた、僕はバカ。