夢100のプリトヴェン夢
E 祝賀会の裏で
城の明かりを背に、ミーティアは市女笠を被りなおした。
今の彼女は、毎日日替わりで着ていたようなドレスではない。巫女の黒い旅装束へ、久々に袖を通していた。
これ以上滞在しても、心が苦しくなるだけだ。
プリトヴェンは第一王子として、カリバーン共々トロイメアの姫をもてなす方へ回っている。恩人とは言えど、同じ待遇など望むべくもない。
今夜は、久々に戻ったカリバーン王子、そして最初に戻った際行われなかったプリトヴェン王子の帰還を祝い、祝賀会が催されている。しかしそこに、ミーティアは参加するつもりなどなかった。
是非とも参加してほしい、と侍女は言ったが、王族貴族の集まる中で旅の巫女など、どんなに着飾ったところで浮く未来しか見えない。
……何より、きっと。
プリトヴェンは変わらず、トロイメアの姫の傍にいるだろう。そんな姿を見るくらいなら、心配をかけてでもさっさとお暇した方がましだと言うものだ。どうせ、二度とこのように気軽に会える身分でもないのだから。
そもそも、姫でもないのに何日も、王城に滞在する方がおかしな話である。よってミーティアが去るのは、至極当然とも言えた。
『ミーティア……本当にいいの?』
「いいのよ、フォル」
笠の下で、ミーティアは苦笑する。それを受けると何も言えなくなり、フォルは黙ってミーティアの首に巻き付いた。
夜の街は静かだ。
騎士団が見回っているものの、深く笠をかぶり、闇に溶ける黒い衣装の彼女は、なかなか目に留まらないらしい。
それはミーティアにとって、実に好都合とも言えた。
「……?」
城門まで来たところで、異変に気づいて立ち止まる。
衛兵が皆、倒れていたのだ。思わず屈んで息を確認すると、微かなうめき声が聞こえる。
『気絶…させられてる……?』
「一体何が……っ!」
ぱしりと乾いた音が、夜闇に落ちる。市女笠を弾かれ、月光に白銀の髪と紅いまなざしを晒したミーティアは、睨むように暗がりを見つめた。
「その人ならざる容姿……噂に聞くトロイメアの姫とは、お前だな?」
『は?!何よお前達!』
「アヴァロンに、トロイメアの姫が……しかも第一王子が懇意にしていると言う姫がいると聞いたんでな。お前を餌に、強請ってやろうと思うのさ。なあお嬢さん?協力すれば、痛い目には合わせないぜ?」
「っえ、な」
ミーティアが何か言う前に、男たちが彼女を乱暴に拘束する。
弾き飛ばされ起き上がったフォルの視界には、嫌がる彼女を気絶させ、物のように運んでいく人間の姿が映った。
『っ……ミーティアを、あの子を離しなさい!』
「ちっ!うるせえ畜生だ、なっ!」
賊の頭だろう男が、飛びつくフォルをつまみあげては思い切り蹴り飛ばす。
きゅう、と何処から出たか分からないような鳴き声をあげて、猫は地面に落ちた。
「そうだな、トロイメアにも強請をかけられるか……」
下卑た算段でせせら笑う男たちの姿は、闇の中に消えていく。その腕に、フォルが慈しんでやまなかった少女を担ぎ上げたままで。
『ミー…ティア……』
フォルはゆっくりと体を起こす。
骨が折れていないのは幸いだが、『ニンゲンのオトコ』が力任せに蹴り上げた全身の組織が悲鳴をあげているのを感じた。
本当ならこのまま眠ってしまいたい。
しかし、放っておけばきっとミーティアは殺されてしまうだろう。
彼女があの男たちの求めるような存在でない以上、どう足掻いても、無事に帰される保障などないのだ。帰るような場所がないような、うつろう身なのだから。
『……しらせ、なきゃ……王子、プリトヴェン王子に……』
痛みと悲しみが、小さな生き物の翠玉を涙に揺らす。
『おねがい、だから……今までの非礼も、詫びるし……なんなら、不敬罪でアタシ、この国に処刑されたって、いいから……おねがい、ミーティアを……』
F 祝賀会の裏で 2
「……はぁ……」
自室に戻ったプリトヴェンは、重い溜息をついた。
今頃大広間では、祝賀会が華やかに催されていることだろう。しかしプリトヴェンはどうにも祝われる気分になれず「少し気分が悪い」と早々に席を辞したところだ。
そも、どちらかと言えばカリバーンに対する意味合いが強いだろうそれに、プリトヴェンが長らくいる理由もないだろう。
……なにより。
「ミーティア……何処にもいなかったな……」
毀れる声に、普段の覇気は欠片もない。
トロイメアの姫とカリバーンが話しているところに、ミーティアを探していたプリトヴェンは通りがかって、弟のことや国のことを少し話した。そんな折ようやっと見つけた彼女に、自慢の弟を紹介した、のだが。
「……」
肝心のミーティアは話もそこそこに、去ってしまったのだ。
それから今日にいたるまでずっと、公務やら訓練やら何やらで会えないまま、祝賀会を迎えてしまった。
もしかしたら、祝賀会では顔を見られるのではないだろうか。
そんな都合の良いことが起こるはずなどなく、プリトヴェンはまたもミーティアを見つけられなかった。
こんな気持ちのまま祝われたところで、嬉しくもなんともない。
そう思い自室に戻ってから、プリトヴェンはずっと、溜め息ばかりついていた。
『……け、て』
「?」
『あけて、あけて』
微かな声が、扉から聞こえる。プリトヴェンは訝しみながらも、ゆっくりと扉を開いた。
ボロ雑巾のようになったフォルが、か細い鳴き声をあげながら見上げている。
「フォル?!どうしたんだ、ミーティアは!?」
『さらわれた、の。ミーティア、が、トロイメアの……姫、だから……』
「なんだって?!」
『継承権、は、ないけど……ミーティアも、トロイメアの……王女で……それも、アヴァロンの、第一王子が……懇意に、してるって……』
「ッ……!」
喘ぎ喘ぎ響く声に、プリトヴェンの瞳がガクガクと揺れる。
思わずフォルを抱き上げると、彼女は痛そうにみゃあ、と鳴いた。
『おねがい……ミーティア、このままじゃ、ころされちゃう……あの子、王子のことが本当に、だいすきだったの……でも、トロイメアの第一王女が、現れたから……自分は、釣り合わないって……』
「……すまない、俺のせいだ。彼女の気落ちを、もう少し考えるべきだった」
『王子が、悪いんじゃないわ……しかたない、の』
「だが……っ」
歯噛みするプリトヴェンの後ろで、がしゃん、とガラスの割れる音がした。
踵を返して窓際に寄れば、石に結わえられた文が投げ込まれている。フォルをそっと机に寝かせたプリトヴェンは、それを広げると、愕然と目を見開いた。
【トロイメアの姫を預かっている。返してほしくば、夜明けまでに100万Gを持って×××××領の廃砦に来ること。ただし誰かに知らせれば、姫の命はないものと思え】
「……」
ぐしゃり、とプリトヴェンは文を握りつぶす。
そのまなざしは、抑えきれない怒りに燃えていた。
『……プリトヴェン王子……』
フォルの、か細い声がする。
「……フォル。こんな俺を信じてくれとは言わない。彼女の優しさに甘えて、気遣えなかった俺だ。けれど、必ず彼女を連れて帰ると誓うから……」
『いいえ。アナタを信じる。アナタも……ようやく、アタシの声を、聞いたんだもの』
先程よりは幾分かしっかりした声で言うと、痛みを堪えるように、小さな猫は体を起こす。
『アタシを、どうか、連れて行って。アヴァロンの第一王子、プリトヴェン。……あの子の居場所を、アタシならきっと……案内できる。アナタ一人じゃ、夜明けまでに奴らの場所まで、つけないでしょ。×××××領の廃砦が、幾つあると思ってるの』
「それは、そうだけど……君、そんな体で」
『心配しないでも、アタシは、そこらの猫と比べて……頑丈なの。それに……』
フォルの瞳が、すうっと刃の鋭さを宿す。
『ミーティアとアタシを、こんな目に合わせたんですもの……絶対に、許さないわ』
G ミーティアとプリトヴェン。間に合った王子様
「ちっ、お前トロイメアの王女じゃなかったのかよ!」
乱暴に蹴られた体が、硬い敷石の床に転がされる。
体が痛い。意識が飛びそうなのに、男の一人が髪を掴んで起こすものだから、ろくに意識も飛ばせない。
「よくも俺達を騙してくれたな、このクソアマ!」
「待て」
「ですが頭!」
「こいつは何も言わなかっただろう。騙されたのは確かだが、顔を殴れば痣になる。そこまで女に無体を働くことはねえ」
「……ふん!」
いきりたった男が、また乱暴に髪を離してミーティアを蹴り転がした。
勝手に騙されておきながら、なんという理不尽だろう。思うが、声を出す気力すらない。
「それに、考えてみろ。本物の王女でなくとも、こんな見目だ。好事家どもが集まるオークションに出せば、それなりに値がつくだろうさ」
頭と呼ばれた男が、ミーティアの服を力任せに剥ぐ。恥ずかしいと感じる心はまだあるものの、全身が痛くてされるがままになってしまう。
「見ろ、この白い肌。それに、胸のこの色。こいつは処女だろうな。より高く売れるってもんだろうさ。だから顔だけは止めとけよ。売り物じゃなくなるんでな」
「処女か……」
「おいおい、先に具合を確かめるってか?……ま、それならそれでもいいだろう。処女って箔は落ちるだろうが、買い手に従順な性奴隷として売るのも……」
頭の言葉は、扉が勢いよく壊される音にかき消された。
砂埃の中、男たちのざわめく声がする。
「何事だ!」
「か、頭ぁっ!ねこ、猫が!」
「猫だぁ?!」
「大量の猫が、俺達を……ぎゃあっ!」
「お、男がひとり乗り込んできますっ!灰色猫を肩に……あ、あれはっ!?」
悲鳴、鉄のぶつかる音、猫の鳴き声。砂埃の舞う中で何が起きているのか、頭と呼ばれた男はおろか、裸同然で転がされているミーティアにも分からない。
やがて砂埃がゆっくり晴れると、ひとりの男が佇んでいた。大きな盾を持ち、肩に灰色猫を乗せ、数多の猫を引き連れた……アヴァロンの第一王子、そのひとが。
「な、っ……お前、アヴァロンの!」
「お前達がしたことは、盾の騎士団長としても、アヴァロンの名を背負う王子としても許し難い」
静かな声で、男が……プリトヴェンが賊どもを睨み付ける。
その視界に、無体を働かれたであろうミーティアが映ると、暗がりの中でも分かるくらい爛々と、瞳が怒りに燃え上がった。
「貴様ら……ッ!」
「は、王子がのこのこ一人で来て何が出来る!こっちには人質だって……!」
『その言葉、お前達にそっくり返してあげるわ』
フォルが地面に降り立つ。人のように二足で歩く彼女に、他の猫が恭しく頭を下げた。
「よくも、可愛いミーティアをこんな目に合わせてくれたわね」
「な、猫がしゃべ……」
「我ら一族が恩義のあるアヴァロン、ならびにトロイメアの二国に対する仕打ち、そして此度の我が身への仕打ち……お前達の命、最早ないものと思え」
静かに告げるフォルが「やれ」と命ずれば、猫たちが一斉に男らへ躍りかかる。その数はどこから集まったかとおもうほどに凄まじく、男たちは成す術もないまま鋭い爪で引っ掻かれ抉られ、次々と沈んでいった。
「王子、ミーティアを」
「! あ、ああ!」
呆然としていたプリトヴェンだったが、フォルに呼びかけられると我に返り、猫たちが繰り広げる惨状の中を抜けてミーティアに駆け寄る。
「ミーティア……っ!」
「おう、じ……どうして……」
「どうしても何も、君が大事だからに決まっている!」
投げ出された彼女の体を、言葉の強さとは裏腹にそっと、プリトヴェンは抱きしめる。
「……すまない、ミーティア。君の優しさばかりに甘えて、俺は……」
「……王子」
「こんなに酷い目に合わせてしまった。初めて見つけた、特別な人なのに……君がいなくなってから知るなんて、俺は自分の愚かさが心底憎らしいよ」
「っ……で、も……王子には、トロイメアの姫が……」
「君も、トロイメアの姫だ」
「!」
「そして、俺の大事な人だ。……君が浚われたと知って、本当に、生きた心地がしなかった」
「っ…っ……」
ミーティアの瞳から、ぽろぽろと涙が溢れる。体が痛むだろうに、それも構わず彼女は、プリトヴェンの逞しい背に腕を回して抱き返してきた。
「君を失うことにならなくて、本当に良かった」
「愛している。ミーティア」
告げられたその言葉は、ミーティアを守る盾のように大きく、あたたかかった。
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