「そこで待ってろっ」
「なんでよ!わたしも一緒に行く!」
「バカ!その足で無理すんな」
「でも、」
「いいから、ちょっと待っとけ」
「大丈夫だって、ピンヒールで踏まれただけだし」
「踏まれただけだったらそんなに赤く腫れねーだろうがっ」
「もう!心配しすぎなんだって!歩けるし、大丈夫だしっ」
「あーごちゃごちゃうるせーな!とにかくそこで待ってろっ」
ちょっと待ってよ、
こんなに優しいアイツ
見たことないんですけどっ
「君の言うことはひどく曖昧だ」
「曖昧、というか…そっちが理屈っぽいんですよ」
「どこがだ?『月が綺麗ですね』なんて当たり前のこと、わたしに言われても困る」
「当たり前、ですか…」
「そうだ。特に雨が降った後だから空気中の余分な塵や埃が流されて空気自体が澄んでいる。光を遮るものが何も無いから−−」
「それが理屈っぽいって言うんです!…聞いたことないですか?夏目漱石の、」
「夏目漱石くらい知ってるさ。千円札の人物だろう」
「今は違いますけどね」
「嘘だろ」
「ホントですよ!何でこんなところで嘘つかなきゃならないんですかっ」
「いつから変わった?」
「自分で調べてください!…じゃなくてっ」
どうやったらあなたに振り向いてもらえるのだろう
愛してる、なんて
面と向かって言えない真夜中の逢瀬。