飛焔・杞亜羅という、幹部戦から僅か数日後。初戦は微妙な終わり方だったが、敗北したので本部の空気がなんか微妙に。



そんな中、鼎が宇崎を訪ねに司令室に来た。彩音と一緒に。
話を聞いた宇崎はオーバーリアクション。


「火を克服したいって本気なのか!?鼎、冷静になれ。落ち着け、落ち着くんだ」

鼎は冷めた反応を見せる。

「室長が1番落ち着いてない…」
「そりゃそうなるでしょうが。飛焔を倒したいのか!?」
「…あぁ。あることを聞いたんだ。私の日本刀型ブレード・鷹稜(たかかど)は飛焔撃破に役立つとな」


宇崎は「おいおいマジかよ」みたいな顔をしてる。

その話…誰から聞いたんだ?鼎が自らトラウマ克服に突き動かすほどなんて。影響力のある人間が吹き込んだのか?



異空間・元老院本拠地。

元老院の長・鳶旺(えんおう)に呼び出された飛焔と杞亜羅は、副官の絲庵(しあん)もいるあの部屋へ。


「今回は何でしょうか。鳶旺様」
「長、何用で俺達を呼び出したんだ?」

鳶旺は椅子からすうっと立ち上がる。長と副官は並んで玉座のような立派な椅子に座っている。2人の間には小さなテーブルが。
「君たち2人はゼルフェノアと交戦したようだな」
「はい」
「飛焔、あの計画は中止だ。気が変わったのだよ…」


気が変わった!?


鳶旺は大袈裟な身振りをする。仮面で顔が見えないのもあるが、鳶旺はオーバーアクションをよくする模様。
「ターゲットをゼルフェノアのみに変えるのだ。これは釵游にも伝えておけ」
「御意」


2人は立ち去ろうとする。…と、そこに乱入したのは鐡。鐡はジャンプすると柵を乗り越え鳶旺に急接近。

「おい、ジジイ。好き勝手に出来るのは今のうちだけだ…」
「宣戦布告かな?鐡」
鳶旺の言い方が冷酷になる。
「俺は元老院を敵対視してるからな。俺の部下を勝手に使いやがって」


鐡は部下の幹部を好き勝手に、元老院に使われたことが嫌だったようだ。

「今は元老院の力が強いというのにねぇ。逆らう気かな?鐡よ」
「ぶっ潰してやんよ」

鐡は消えた。幹部達は微妙な空気になる。俺達板挟みじゃんかよ…。
力をつけた元老院には逆らえないため、幹部達は渋々従っている。本当は鐡様の側にいたいのに…。



本部では鼎の炎克服の策を考えていた。


「あの火を使う飛焔撃破の鍵が鼎のブレード!?運命のいたずらか…。むちゃくちゃ因縁めいてるじゃねぇか…」

御堂もさすがに気にしてる。火を見ると動けないどころか、戦意喪失するってのに…。克服なんて出来るのかよ…。
そんな御堂も杞亜羅には歯が立たなかったため、本当はめちゃくちゃ悔しい。
あの杞亜羅という女とはまた戦いそうなんだよなー…。



司令室にはある人物がやってきた。蔦沼長官だ。長官と秘書兼世話役の南も同行してる。
蔦沼長官は両腕が戦闘兼用の義手であるため、長官用の制服のデザインも独特。肘から先が見えるように袖が五分丈くらいになっており、ゆったりめ。
長官の制服も隊員と同じく白地だが、詰襟タイプではないのが特徴。
ゼルフェノアで唯一、制服が詰襟ではないのが長官だ。

秘書兼世話役の南は眼鏡姿の真面目そうな男性。秘書の制服はダークグレーの詰襟タイプ。


「長官、一体何しに来たんですか?」
宇崎はなんとなく聞いている。

「…ここ最近の報告を聞いて、元老院を監視することにしたんだよ」
「…ど、どうやって!?」
「既に異空間に迷い人として、諜報員を送りこんである。今頃監察官候補者として元老院本拠地にいるはずだ」


そんなこと可能なの!?


「ゼノクの技術でワームホールを作ることに成功したのさ。諜報員の名は高槻。今のところ順調だそうな」

「…よく異空間に送り込みましたね…。帰れるんですか?」
「ゲートはいつでも開けることが可能だよ」
「洗脳されてないんですか?高槻は」
「洗脳されてるふりをしているよ。彼は他の迷い人の解放も計画しているようだが、難しいだろうね」



元老院本拠地・東館。

監察官候補者5人はここで監察官になるべく勉強し、生活している。監察官は1人しかなれない。
高槻は元老院独特の出で立ちを利用して、候補者達に近づいていた。互いに仮面で顔が見えないから話しやすい。


諜報員の高槻以外は迷い人。
その中に女性がひとりだけいる。彼女は洗脳がまだ不完全なせいか、「ここから帰りたい」と時折呟いている。


高槻は彼女と親しくなる。この迷い人は名を伊波と言った。


東館休憩室。

「高槻さん、私…ここから出たいです」
「それが出来たら苦労しないよ。僕達は迷いこんでしまったばっかりに、変な組織の一員にされそうなんだから」

候補者のリーダー格の男が言う。
「呑気に話してる暇なんてあるんかねぇ?監察官は1人しかなれないんだ。元の世界に戻れるなんて、幻想だね」


こいつ、完全に洗脳されてるな…。


候補者には仮面の上から眼鏡をかけた男性もいる。彼はほとんど話さない。
素顔は眼鏡姿なのは想像つく。眼鏡の男性は呟いた。

「仮面に眼鏡って浮いていますよね…。違和感が拭えません」


やっぱり気にしてる。洗脳されてる割にはすっごい見た目を気にしてるよ、この人。
その眼鏡の男性の側には中学生らしき少年。彼も洗脳されてはいたが、慣れない仮面に苦戦中。

「なんで人前では仮面なんだよ!わけわかんないよ…ここ。みんな同じような姿でさ…」


眼鏡の男性は少年を落ち着かせた。「掟なんだから従うしかないですよ」と。

リーダー格の男は4人に言う。
「監察官になれば、元の世界と往き来出来ると聞いた。待遇もよくなるってよ。絲庵様から聞いた」


眼鏡の男性は淡々と勉強してる。白いベネチアンマスクの上から眼鏡って、かなり見づらそうだ…。
現にかなり見づらいらしく大変そう。眼鏡の男性と少年は親しくなっているようだった。



本部・司令室。長官も鼎のことが気になっていたらしい。

「紀柳院の火のトラウマの克服ねぇ…。まずはバーチャル炎から克服させてみたら?」
「バーチャル炎?」
「シミュレーション怪人装置あるでしょ?あれ、怪人以外にもシミュレーション出来るの。取説見てなかった?」


長官、相変わらず軽いな…。


「取説あったの?」
「僕が開発したものはだいたい取説付けてるじゃないか。あ、そうだ。…桜井流葵のことなんだが」
「彼女、ゼノクの治療進んでますかね…」
「まだ時間はかかるよ。人前では仮面を頑なに外したがらない…。だから逆転の発想で、人前では仮面を着けたまま過ごしてもらうことにした。そしたら彼女の治療が進んだんだよ」
「鼎のケースを参考にしたんですか」

「ま、そういうこと。紀柳院とは打ち解けていたようだし、桜井は紀柳院のことをかなり気にしていたからね」





第15話(下)へ続く。