限りなく現代に近い世界。技術革新が進んでおり、また怪人が出現するような世界。日常的に市民は怪人に怯えるような日々を送っていた。

いわゆる雑魚怪人という名の、戦闘員レベルの怪人でも一般市民からしたら脅威。
そこで対怪人組織「特務機関ゼルフェノア」は作られた。怪人殲滅に特化した、警察でも自衛隊でもない組織。



都立某高校―。暁晴斗は運動神経だけが取り柄の高校2年生。運動部に引っ張りだこだが、部活には入ってない。
なんとなくこのありきたりな日常が嫌だった。怪人の脅威こそはあるが、まだ出現頻度も低く「隣の芝生は青い」現象が起きている。


休み時間。

「暁ー、しばらくバスケ部に助っ人来てくれよー。人手不足なんだよ〜。数日でいいからさぁ、助っ人頼むよ。ねぇ?」
クラスメイトのバスケ部の1人が晴斗を助っ人に必死に呼び込もうとする。
「バスケ?あぁいいよ」

晴斗は二つ返事をした。いまいちやる気が出ない。そろそろ部活には入っておくべきなんだけどさ…。



東京都心郊外・ゼルフェノア本部。郊外のある場所にその対怪人組織は存在する。

本部には組織直属病院が隣接しており、連絡通路で往来可能。
グラウンドと演習場まで兼ね備えた巨大施設。内部も隊員用のトレーニングルームや射撃場・道場や装備の改良などに使う研究室などがある。それとは別にゼルフェノア寮なる、アパートも存在する。


その本部の一角、とある折り畳み式机とパイプ椅子しかない質素な部屋に、組織の制服の上から白衣を羽織った眼鏡の男性が誰かと話してる。制服の色は紺で詰襟タイプ。

隊員とは違う役職者だ。
この男性こそ、現ゼルフェノア本部司令・宇崎幾馬である。研究者上がりなせいか、隊員からは「室長」呼ばわりされてるが本人は嫌ではない。


宇崎は司令でありながらも、研究室長も兼任している。
研究は趣味程度にしかやらないが、白衣のせいか「室長」という呼び名が本部に浸透してしまった。


そんな宇崎はある隊員と1対1で話をしている。
その隊員は白い詰襟タイプの制服に、右腕には赤い腕章のようなデザインが施されている。赤いデザインには組織のエンブレム。隊員の制服は白いのが特徴。


その話相手の隊員は明らかに異質だった。

宇崎は何事もないように話してるが、相手の女性隊員は白いベネチアンマスクを着けている。当然、仮面で顔は見えないので彼女は仕草などで意思表示を見せているようだった。

仮面の目に当たる部分は黒いレンズで覆われているために、さらに表情なんてわからない。
彼女は黒い薄手の手袋を履いていた。他の隊員はほとんど素手か、戦闘用の少し厚手の手袋を履くことが多い。


宇崎はそんな仮面の女性隊員と分け隔てなく会話中。


「鼎、和希はあと3週間ほど支部にいるんだとよ。小田原司令が和希を鍛えるって言っててね。その間…お前が隊員をまとめてくれないか?鼎出動の際はサポートに彩音もつけるから」

宇崎は司令とは思えないくらいにフランクな口調。フランクすぎか?
鼎と呼ばれた仮面の隊員はようやく顔を上げる。

「それは…一時的に分隊長になれと言うことか?」
「臨時でな。最近メギドが頻発してきてるだろ?和希が本部に戻るまでの間だけでいいんだ。やってくれるかい?サポートはする。お前の戦闘のリスクは十二分にわかっているからな」

鼎と呼ばれた仮面の隊員は、少し間を置いてから返事をした。
「…はい」


この仮面の女性隊員、彼女が紀柳院鼎である。鼎は部屋を出た後、不安に駆られていた。
分隊長だと!?いくら一時的だとはいえ、荷が重すぎないか!?私には戦闘時間に制限があるというのに…。御堂が本部に戻るまでの間…務まるだろうか…。



メギドというのはこの世界に頻発している怪人の総称。メギド戦闘員は複数出現する。見た目は戦隊の戦闘員っぽい。

それとは別のものがランクが上のメギドだ。こちらは様々なモチーフや能力があるとされてるが、メギドの生態に謎が多いためまだ解明されてない。



本部・休憩所。鼎を心配してやってきた隊員がいた。鼎の先輩でもあり、親友の駒澤彩音だ。

「鼎〜いたいた。どうしたの?なんかあった?」
「室長から呼び出されたよ」
「呼び出しなんて珍しい」
「一時的に分隊長やれと言われた…。御堂が戻るまでの間限定で。サポートはつけると言うが…不安だ」

鼎は彩音相手になると本音を漏らす。
「私も室長から言われたよ。『鼎のサポートよろしくな(キリッ)』って。鼎は考えすぎなんだよ。実力もあるんだし、前向きに行こうよ。鼎は1人じゃないんだよ?」
「そうだよね…」

彩音の言葉に勇気を貰ったようだった。



京都中心部郊外・ゼルフェノア支部。御堂和希は気が気じゃない。

御堂は分隊長クラスにもかかわらず、制服を着崩しているような人。基本的に半袖スタイルとラフな格好。


ゼルフェノアは戦闘しやすければ制服を着崩す・カスタムは認められている。


「…だーっ!本部大丈夫かよ!俺不在でまとまるのかー?」
「まぁまぁ、気にしなさんな。和希くんよぉ」

そう御堂に声を掛けたのは支部の分隊長クラス・囃。御堂と囃は同期なせいか、会話も砕けてる。

「早速情報が入りましたぜ。本部の臨時分隊長…お前の後輩の紀柳院がやるってさ。和希が本部に戻るまでの間限定でな」
「鼎が!?室長無茶ぶりはよせよーっ!あいつのリスクわかってんのか!?」

御堂は頭を抱えてる。御堂と鼎は先輩後輩関係にある。囃は相変わらず呑気に続ける。


「リスクわかってて選んだんだじゃないの?あえて。司令は紀柳院の実力見たいとかありそうだよな〜」
「囃はマイペースだな…。他人事だからって、おい…」


御堂は鼎のことを詳しくわかっているため、少し過保護気味。



ゼルフェノア本部。御堂から連絡が鼎に入る。

「鼎、お前絶対に戦闘中無理すんなよ!いつも通りにやればいいからな!」
「わざわざ連絡したのか、御堂…」
鼎はどこか冷めている反応。

「お前がとにかく心配なんだよ。彩音のサポート入るから大丈夫だろうけどよ…。俺はもうしばらく小田原司令にしごかれるんで、頑張ってな」

電話が切れた。


鼎はぼーっとスマホを見る。サポートも付くんだ、大丈夫だろう。一抹の不安はあるのだが…。



都立某高校ではそろそろ下校時間になろうとしていた。いつも通りの日常。ありきたりな毎日。
晴斗はバスケ部の助っ人に行こうか、そのまま帰ろうか少し迷っていた。

いつからだろう。こんなにも空虚になったのは。


12年前、悠真姉ちゃんは怪人による放火で焼け死んだ。
本当の姉のような優しい人だった。俺を弟のように可愛がってくれて…。都筑家があった場所は今は更地となっている。

もし、生きてたら悠真姉ちゃんは何歳になっていたんだろう。
犯人の怪人は未だに見つかっていない。この連続放火事件は未解決のまま、時が過ぎている。


晴斗は何をするわけでもなく、廊下からグラウンドをぼーっと眺めていた。
今は帰宅部だが、正直悩んでいる。今後のために部活には入るべきなんだろうけど…。


そういえばあの放火事件以降、父さんは数年後に隊員をいつの間にか辞めていた。何かがあったとしか思えない。今は会社員。
母さんは現在在宅ワークしてるが、あの事件のことはタブー視している。



晴斗はなんとなく体育館へ向かおうとする。なんとなく。
そこで晴斗はある恐怖と遭遇してしまう。





第1話(下)に続く。