とっても久しぶりのヤマト小話ですよ、皆様!(^∀^)
前前回、ヤマト小話を更新したのがちょうど2年前の6月15日の『Rainy Date』。
そして、前回のヤマト小話を更新したのが、1年前の6月15日の『古代菜園』。
そして、今回のヤマト小話はなんと6月10日の更新!
この時期は、やはり小話を書きたくなる季節なのですね!もうすぐ別ジャンルの連載の鉄血も終わりますので、もっと以前のように小話が書けるようになりたいです!
さて、今回の本編47話がハードですから、特別態勢で小話を書かせていただきました。本編を読まれた後に、読まれることをすごくオススメします!
こちらは、後日に番外編として新たに書き下ろされる冒頭文にあたります。ここだけで一つの小話にまとまっていますので、楽しんでくださったら嬉しいですv
時系列はシリーズ終了後、結婚したての二人です。
では、追記へどうぞ!
政略結婚をした君の世界へ愛のくちづけを
「我らが偉大なる指導者、デスラー総統万歳!」
「古代総統妃、またのお越しを!」
ガーレ・デスラー! ガーレ・デスラー!
大衆がうねり、公共施設から出てきたこの星の元首夫妻に大歓呼が押し寄せる。緑地に鮮やかな深紅で象られたガミロンクロイツェ(ガミラス十字)の国旗が群衆から沸き立ち、祖国の栄光を祝して天に向かって振られた。咲き乱れる数多の笑顔は、ガミラスの輝かしい未来の体現者たる夫妻に向けられていた。
光り輝く金の髪をなびかせ、麗しい総統閣下は臣民たちに向かって手を掲げて雄々しく笑んだ。総統の手に引かれ、優しい微笑みを浮かべたお妃もまた、片手でドレスの裾を持ち上げて軽くお辞儀をした。
総統はお妃を先にリムジンに乗せてから、自らも乗り込む。運転手の総統付き親衛隊員がドアを閉め、前後に何台もの警護車を伴いながら総統のお車は走り出した。開けた車窓から手を振る夫妻は、沿道に詰めかけた臣民の熱い歓声をくぐり抜けていった。
ガーレ・デスラー! ガーレ・デスラー! ガーレ・デスラー!
「き、緊張した〜〜〜!」
臣民の大海を抜けた瞬間、古代は一気に脱力して息を吹き返した。
凜と背筋を伸ばした肢体から、風船のようにぷしゅ〜〜とお妃の威厳が抜けていく。
隣に座るデスラーは、そんな新妻をよしよしと優しくねぎらって、自らの肩に招き寄せた。
「いい感じだよ。その調子でずっとニコニコしていたらいい」
ほら、今日も頑張ったご褒美のキス。
デスラーが栗毛の後ろに手を添えて、ちゅっと桜色の口唇にご褒美を贈った。ん、と鼻にかかった古代の恥ずかしげな声。
ガミラスに嫁いだばかりの古代は、総統妃として公務を始めたばかり。
民間や軍の行事に出席し、視察を通してガミラスのことを知りながら、臣民との交流を深めていく最中にあった。
古代は総統府にいる時の普段の格好とは異なり、お妃の正装として光沢のある白地の男性用ドレスを着込んでいる。前側にスリットのあるもので、着慣れない衣装でも裾を踏んで転ばないように配慮がなされ、そこから両足に吸着するかのような白のロングブーツを覗かせていた。赤い宝石の耳飾りを栗毛から揺らし、可憐さを引き立たせるように穏やかな面立ちには薄く化粧がなされている。
まさに軍服をまとう端麗なる総統の隣に立つにふさわしい、気品溢れる白い花のようなお妃の麗姿。
男性なら軍服を着込むべきではあるが、これはデスラーの意向によるものだ。夫妻そろって軍服を着込むと、官僚すべてが同じく軍服を着ていることもあり、絵面としてはガチガチの軍人集団に他ならない。メディアで報道されるたびに、軍国主義が全面に押し出されて臣民に嫌でも緊張感を与えてしまう。雄々しい指導者の傍らに、ホッと気を緩ませるような可憐な華が欲しい。
『これはガミラス帝国のためだよ、古代。断じて私の嗜好ではない。しかし、この装いをした君は、天から舞い降りたエンジェルのごとくとても美しいだろう。私のそばにガミラスに加護を授ける清らかで愛らしい守護天使を置きたい。いいかね、これは私の嗜好ではない。だが、着てくれると感激の極みだ。ガミラス正妃として、私のため―――ゴホン、国家のために是非着てくれたまえ」
古代は両肩をガッチリ掴まれて、そう熱心に力説された。嗜好じゃないとか言いつつ、多分に嗜好も含まれてるだろおまえ。ウェディングドレスに味を占めたに違いない男を、古代は容赦なくジト目で見た。
今では、行事によっては軍服と併用する形でドレスを着ている。さすがに恥ずかしくてまだ慣れないけれど、これもお妃の務めと思えば頑張れる。しかしながら、着るのはいいがドレスに負けてはいけない。古代は民間出身のなけなしの威厳を掻き集めて、総統にふさわしい高貴なお妃を頑張って作りながら公務に臨んでいた。でも、今の古代には微笑むだけが精一杯。デスラーのように積極的に臣民に話しかけることも、優雅に立ち居振る舞うこともできない。
「俺にデスラーの威厳の一割でもあれば良かったのに。少しでいいから、その威厳を分けて欲しいよ……」
幸先を悲観して嘆息する古代に、デスラーはクスクスと笑った。
「少しどころか全部あげよう。公務では私がいつもそばにいるからね。二人の威厳を足せば、きっと無敵の夫妻となるだろう」
ションボリと落ち込んだ古代も可愛いので、細い腰を引き寄せて、元気づけるためにもうちょっとキス。古代は目蓋を閉ざし、甘やかな鼓動を奏でる胸のうずきを聞きながら夫の愛情に身を委ねる。柔らかな光沢のある純白のドレスが衣擦れの音を立て、白いうなじにつけた香油がデスラーの鼻腔に優しい花の香りを届ける。柔らかな感触と香りで、頭がうっとりとした。
「………では、今日のおさらいをしようか」
デスラーは恍惚に眼差しを細め、可愛い口唇をついばみながら深く甘やかな声で促した。
夢中になった口付けの片手間で、車内に設置されたコンソールを操作し、収納されていたモニターを展開。国営放送を呼び出した。
『バレラス放送より正午のニュースをお伝えします。本日、デスラー総統ご夫妻は、帝立バレラス海洋研究所の二百周年記念式典にご臨席されました。ご夫婦はレーヴェン名誉所長に伴われ、館内をゆっくりご視察され、バレラス海が育んだ生物の豊かな多様性に温かな眼差しを向けておられました。ご成婚を迎えられたご夫妻は仲睦まじく、総統閣下はお妃を常にエスコートされ―――』
「お、おまえ、べ、ベタベタしすぎ………う、うわあああああ〜〜〜〜」
早速、古代からデスラーにダメ出しが入った。
モニターを正視できずに、カァ〜〜と赤らめた顔を両手で覆って羞恥を極めた呻き声。栗毛からポッポッと蒸気が噴き出していく。
国営カメラマンが撮影した映像には、お妃のそばから片時も離れない総統閣下のお姿があった。その手は常にお妃の手を握り締め、辛うじて離したのは演台に立った時と拍手をする時ぐらい。臣民に手を振る際も、式典に着席する際も決して離さず、特別展が開かれた館内視察の際にもずっと手を繋いで初々しいお妃を優しく連れ添わせる。時折、細い肩を抱き寄せ、ダンスをリードするように進行方向を変えさせた。黒のマントと白のドレスが優雅に翻る。
展示物を指し示しては、睦言を交わすようにお妃にそっと囁く総統閣下。新妻を心から愛し、お妃を覗き込んで微笑む。ガミラスの海洋生物に興味津々なお妃は目を輝かせて、総統の微笑みに笑いかけた。その様子が拡大映像でモニターいっぱいに映し出される。
このたびの公務でも、古代の願いは恥ずかしくも完全に裏切られた。全部カメラに収められていた。国営放送でしかもノーカット。
『長年の時をかけ、ガミラスの海洋学に精励してきた諸君らのように、我々夫婦も末永い時をかけ、ガミラスの輝かしい未来のために尽力し、皆に祝福されるような夫婦(めおと)となりたい』
演台に立った新婚ほやほやの総統は、二百周年の祝辞を研究所に述べながら、そこに夫婦のことを織り交ぜて誓いを立て、『私の古代が――、私の古代が――』と延々と『私の古代』というお決まりのフレーズを今日も連発。
『本日もとても仲睦まじいご夫妻ですね』
ニュースキャスターたちが総統の熱愛ぶりを微笑ましく笑い合った。
「ぁぁあぁ、ああああああああ〜〜〜〜〜〜!」
古代の喉奥から羞恥の悲鳴が長々と漏れ出す。
毎度のこと、恥ずかしくて死にそうになる。ニュースはこれまでの総統夫妻の公務の様子をダイジェストで流していた。どの映像でも、ようやくガミラスに迎えたお妃と手を繋いで、とても幸せそうにしている総統閣下がいた。総統の熱愛ぶりをキャスターたちが、ニコニコしながら話題にしている。おい、やめろ俺のハートを殺す気か。
「最初に比べたら慣れてきたね」
モニターを見られずに顔を覆った古代は耳も真っ赤だった。デスラーはそんな可愛い人を腕に抱いてとっても嬉しそうに笑いながら、古代の公務を穏やかに批評した。
「今回は取り分け注意すべきことはないかな。ちゃんとこれまで通り、臣民に微笑みながら私の手を握っていれば大丈夫」
「俺は保護者に引率される子供か」
「子供どころかまだ公務を始めたばかりのヨチヨチ歩きの赤ちゃんだね。心配すぎて目が離せない。夫である私がちゃんと守ってあげなければ」
「あんなに、ベッタリしなくても………」
「これも君主としての勤めだ。我々が円満であれば臣民も安堵する。民に幸せをお裾分けしないとね」
デスラーは真っ赤に熱くなった古代を両腕で抱きしめてご満悦だった。恥ずかしがって急上昇した体温を胸に抱き込むと、古代の熱を全身で堪能できるからとても気持ちいい。当の古代は赤ちゃん呼ばわりされて、ムウと頬を膨らませていた。経験不足なのは認めるけれど、もうちょっと言いようってものがあるだろ。俺は大人なんだぞ。
デスラーは古代のご機嫌が斜めに傾きつつある気配を察していたが、それに備えてちゃんと妻が喜ぶものを手許にそろえておくのが、格好いい男の証。「ほら」と、デスラーは視察での古代の様子を鑑みて、こっそり所長に依頼していたものを渡す。特別展を機に一般で販売されるもので、古代の好みに合わせてタブレットで閲覧できるアプリ形式のものではなく、紙でつづられた分厚い冊子のものを手配させ、隊員に命じてあらかじめ車に運ばせておいた。膨れ面だった古代は、それを見てパッと目を開いた。海洋研究所二百周年記念特別展パンフレット。
「わっ、ありがとう!」
古代はたちまち機嫌を直して、笑顔を花開かせた。早速、もらった冊子を膝の上に置き、パラパラとめくり始める。
パンフレットにはガミラスの海に生息する多くの生き物たちが色鮮やかな姿を踊らせていた。地球の海洋生物と似た形態を持つものや、古代が見たどの生物とも類似しない奇妙奇天烈な風貌を持つものなども多くおり、太古の昔に生きていた生物の化石も展示されていていた。研究所施設内では実際に飼育観察されているものもいて、どれだけ見ても見たりないほど面白かった。帝都に面したバレラスの海を中心にして構成された特別展。総統府でも遠望できる身近な海に、こんなに多種多彩な生物が息づいているだなんて信じられない。
クリッとした大きな栗色の瞳がキラキラと輝いて、無垢な星屑の光でいっぱいになる。視察中も見せてくれたその瞳に見とれながら、デスラーも冊子を興味深そうに覗き込む。
「随分と楽しそうに見ていたね。古代は海が好きなのかね?」
「うん!」
古代は色鮮やかな生物たちに夢中になりながら、子供のように頷いた。
「父さんがよく連れて行ってくれたんだ。夏休みになると、仕事が休みの日に浮き輪や釣り道具を持って出掛けてた。海水浴をしたり、魚釣りをしたり、バーベキューなんかもしたりして………。日暮れの海岸をずっと歩きながら、貝殻を集めたこともある。砂浜に星みたいに散らばってるんだ。瓶に詰めて、ずっと机に飾ってたな」
綺麗だ。
古代はページを埋め尽くすガミラスの貝たちに感嘆した。
ひとつひとつの形や模様は面白く、彩りは非常に豊かだ。極彩色の紋様を着飾るものもいれば、柔らかなミルク色を身にまとうものもおり、まるで生物として完成された宝石のようだった。実際に宝飾品として加工される貝殻も記載されている。これらが帝都の海に生息していると思うとワクワクした。
「また海に行ける時があったら、拾いにいってみたいな」
古代は貝殻の図に指を滑らせて小さく呟いた。
童心に返った優しい微笑みには、彼本来の純真な心が現れていた。
「古代は自然が本当に大好きだね……」
デスラーは古代から冊子を受け取り、自分の手でページをめくる。 愛する人の言葉を聞くと、デスラーの世界は新しく生まれ変わる。古代から得た思考と記憶が、脳に編み込まれたシナプスを光り輝く星となって生き生きと駆け巡り、菫色の眼差しを清らかに潤して、見るものすべてを愛おしくさせる。これが古代が見る世界。ああ、なんと美しい。心が豊かさを覚える。彼と同じ視点を得られる瞬間に出会え、世界の美しさをまたひとつ知る。
デスラーが本に目を向けている間、古代はガミラスの街並みを車窓から眺めていた。
今回、視察に訪れた研究所は帝都の郊外にあり、その周辺の街は都心に比べて穏やかであり、行き交う人々や車の往来にも忙(せわ)しさが見られない。ガミラスに嫁いだ古代が外出できる機会はまだ限られており、高層ビルが建ち並ぶ総統府の近辺にしか出掛けたことがない。こうしてガミラスの田舎道を走るのは初めてだ。見るものすべてが真新しくて、あちこちを見渡す。
街の中心を横断する幹線道路を走り、帝都の中枢へ通じる公用高速道路に入るまでの道筋。街の中心には道路に沿って緑豊かな街路樹が植え込まれ、木漏れ日が連なるリムジンを煌めかせる。お洒落なお店が建ち並ぶ一角に、古代はふとお菓子屋さんを見付けた。ダークウッドの木材に、クリーム色の壁の外観。木調の扉には、お店のシンボルマークが白くワンポイントに描かれた大きな玻璃を嵌め込まれ、店内の様子が見えた。入り口は緑豊かな大きな鉢で囲まれて、ガミラス文字でウェルカムと書かれた木の看板。赤い立て看板には、焼き上がったお菓子の案内や今月の定休日のお知らせなど。焼き菓子、ケーキ、プリンも置いてあるんだ………へぇ………。
「何を見ているのかな?」
「うわっ!」
じっと見ていたら、背後から大きいのが覆い被さってきた。古代と同じ視線を共有すべく可愛い栗毛にキスをして、遠慮なく頭に顎をどっかり乗せてくる。古代の身体が前のめりに沈み込む。縦に一列に並んだ総統夫妻の生首。車窓から通行人が眺めてたら絶対に飛び上がるホラーだ。外からは中が見られない車で本当に良かった。デスラーの頭の重さに負けじと、古代は首を持ち上げる。
「あ、あのお菓子屋さん、母さんが好きそうだと思って……」
「ほう、君のお母上が……」
デスラーは古代の目線に応じて、お菓子屋さんを発見した。なるほど、美味しそうなお菓子の写真が目に入る。古代の趣味は父と母譲りだと知りつつあるデスラー。古代もとても好きそうだ。
「入ってみるかね?」
デスラーが誘うと、古代は首を振った。
「この格好じゃ無理だよ」
美しい装いをしたお妃さまは、赤い耳飾りを揺らしながら苦笑した。
街の中心を抜け、緑豊かな住宅街が広がる道に出る。
のどかな一軒家が建ち並び、広い庭に咲き乱れる花々が見事だった。騒々しい都心に入る前に、穏やかな風景に心の安らぎを覚える。
信号で車列が停まる。生け垣から沸き上がるように咲くバラに、思わず目を奪われる。愛らしいピンクのワイルドローズが、小さな花をたくさんほころばせている。
「古代は花も好きだね」
古代の視線と連動して、デスラーも花々を見据えた。温室で過保護に栽培された花よりも、サレザーの陽射しを浴びて、鮮やかにのびのびと咲き誇る花の方が古代にはふさわしい。
古代といればいるほど、彼の好きなものを知ることができる。それがデスラーにとって、とても嬉しい。
「もっと君を知っていきたいな。全部知って、すべて私だけのものにしてしまいたい」
ぎゅう、と華奢な身体に回した腕の力を強めて、白いうなじに顔を埋めてキスをする。
古代は顔を赤らめ、頬に当たる金糸に苦笑を零した。
「ホント、すごい独占欲」
当然だよ。
デスラーは新妻を胸に抱き込んで、そう幸せそうに笑った。
「これからは、ずっと君は私だけの古代なのだから」
To be continued.
2018-6-10 17:50