2010-4-1 21:32
「わぁ、綺麗!」
「素晴らしい桜じゃな」
桜並木の元で、鴨太郎と晴明は感嘆の声を上げた。
季節は春。
春といえば、花の季節。
桜を始めとする様々な花々が芽を出し花をつけ始める。
「お天気、晴れて良かったですね、晴明さん」
「あぁ、クリステルの予報が当たったな」
空を見上げれば、青々とした空が延々と続いていた。
絶好の花見日和という訳だ。
それぞれにレジャーシートを敷いて、本格的に花見の準備をする。
「ときに鴨太郎、ぬしは一人で来たのか?」
「はい。…でも、あとからもう一人、来る予定…なんですけど…っ…」
嬉しそうに、ほんの少しもじもじしながら言う鴨太郎に、晴明はすべてを悟った。
「なる程、男か」
「!!!」
真っ赤になる鴨太郎を見て、晴明はクスリと笑う。
「なっなんっ…」
「ぬしのことなど、見ていれば分かる」
「うぅ…恥ずかしい…」
「そんなことはない。それよりすまぬことをしたのう」
「え…」
晴明の言葉にピタリと動きを止める。
「その男の分の席、わしのせいで足りなくなってしまったのではないか?」
「!!!そんなこと、決して!」
鴨太郎は真っ直ぐ晴明を見つめる。
実際のところ、広さなんて充分ある。
「そうか?ならば良いのだが」
「もちろんです!」
にこ、と笑みを浮かべる鴨太郎に、自然と晴明の表情も緩む。
「そう言う晴明さんこそ、どなたかいらっしゃる予定があるのでは…?」
「!!!」
鴨太郎の言葉に晴明は面白いくらいに身体を跳ねさせた。
「な、何を言って、」
「やっぱり、そうなんですね?」
動揺する晴明を見てパッと鴨太郎が笑顔で問い掛ける。
晴明は頬を染め、バツが悪そうにして弁解をする。
「こ、これはわしが望んでしたことではなくてだなっ、その、奴がどうしてもというから、仕方なく、その、」
しどろもどろになる晴明を、鴨太郎はジッと見つめていた。
「晴明さんにも、やっぱりそういう方がいらっしゃったんですね!」
「!!なっ、彼奴はそのような関係の者ではっ」
「いいなぁ。僕もお会いしてみたいです」
「だから誤解じゃ鴨太郎っ」
嬉しそうに勝手に話を進めていく鴨太郎に、晴明が必死に否定するが、まるで効果がない。
「まったく…、どれもこれも、すべて彼奴のせいじゃ…」
「ほう?彼奴とは誰のことかな、晴明よ」
「ひやっ!??」
突然の背後からの言葉にビクリッと肩を跳ねさせて振り向く。
そこには妖しい笑みを浮かべた黒き陰陽師、否、晴明の想い人である巳厘野道満が立っていた。
「どっ…道満っ!」
急な想い人の登場に焦っているのか、声が上擦る晴明。
対照的に、道満の声は落ち着いていた。
「なんだ晴明。恋人が来てやったというのにその態度は」
「だっ誰が恋人じゃ!貴様をそのような風に思ったことは一度も」
「ならば晴明、お前は何とも思っておらぬ相手と日々身体を重ねるのか…?」
「!!!」
晴明の顔にみるみるうちに朱が差し、耳まで赤く染まっていく。
「ッッ道満っ!!!」
「はははっ、お前をからかうのは実に面白いな、晴明」
真っ赤になって暴れる晴明と、それを難なく押さえ込む道満。
二人の仲の良さに鴨太郎は思わず笑みを漏らしてしまう。
「仲が良いんですね、お二人とも」
「!か、鴨太郎っこれはだなっ」
「ほう。ぬしが最近晴明と懇意になっているという者か」
そう言って道満は鴨太郎をジッと見つめる。
「はい。はじめまして、伊東鴨太郎と申します。晴明さんには、いつもお世話になっております」
「此方こそ、晴明が世話になっている。…俺は巳厘野衆頭目、巳厘野道満。晴明の恋人だ」
そう言って晴明を見れば、頬を染めたままふん、と顔を逸らされてしまう。
「ふふ、よろしくお願いします、巳厘野さん」
「あぁ、此方こそな」
軽く握手をして、微笑み合う。
晴明はいたたまれないような気分だ。
そのとき、遠くから鴨太郎を呼ぶ声が聞こえた。
「鴨太郎っ!」
「!十四郎…!」
漆黒の男が、軽やかな身のこなしで此方に駆け寄ってくる。
「どうやら、鴨太郎の想い人も来たようじゃな」
今まで黙っていた晴明が、諦めたようにようやく口を聞いた。
「悪ィな、だいぶ遅くなっちまって」
「ううん、平気。それより仕事は大丈夫なの?」
「あぁ、キリの良いところで中断してきた」
鴨太郎と楽しそうに話している、漆黒の隊服に身を包んだ男の姿。
鴨太郎は土方に背を向け、二人に向き直った。
「お二人とも、紹介します。ぼ、僕の…恋人…の、土方十四郎です。真選組の副長を務めています」
恥ずかしかったのか、“恋人”という言葉を小さく言って土方を紹介する鴨太郎。
真っ赤になって震える鴨太郎を見て、晴明は微笑んだ。
「鴨太郎は土方殿が大好きなのだな」
「!!!そっそんなっ」
更に赤くなる鴨太郎を尻目に、紹介された土方が、一歩前に踏み出して道満と晴明の前に立つ。
「…土方十四郎だ。いつも鴨太郎が世話になっているな」
柔らかい表情を浮かべ、土方が晴明に握手を求める。
「いや、此方こそ親しくしてもらっている。わしは結野晴明という。仲良くしてくれると有り難いの」
晴明は土方の握手に答え、そう自己紹介する。
“晴明”という名前に、土方は僅かに反応した。
「へぇ…、じゃあアンタが“セイメイさん”か」
「わしのことを存じているのか?」
興味深そうに自分を見る土方に、晴明が問い掛ける。
「あぁ、鴨太郎からよく話は聞いててな。幕府お抱えの陰陽師なんだって?」
「あぁ、その通りじゃ。癪に触るがわしと此奴、巳厘野道満と一緒に江戸を守っておる」
「癪に触るとはどういう意味だ、晴明」
「言った通りの意味じゃ」
晴明の嫌味のない誇らしげな態度に、土方は僅かに微笑んだ。
「じゃあ、こっちの巳厘野道満さんとやらが、晴明さんの恋人なんだな?」
「!!!」
“恋人”という言葉に、晴明はまたも身体を跳ねさせた。
「ちっ違っ、誰がこのような者を恋人になど」
「違うのか?」
「晴明、嘘は良くないぞ。俺と幾度も重ねた唇、忘れたか」
「きっ貴様ぁっ!!」
「何だ、やっぱり恋人なんじゃねぇか」
一生懸命否定を試みるも、あっさりと言い負かされてしまう。
「〜〜〜〜っ…」
「まぁまぁ、晴明さん」
真っ赤になって俯く晴明を鴨太郎がなだめる。
「んじゃ、旦那同士仲良くやろうぜ、巳厘野さんよォ」
「あぁ、これからもよろしく頼む」
土方が道満に向けて手を差し出し、それを道満が受け入れる。
「だ、旦那って…」
「ふざけるな!わしは認めぬぞっ!」
恥ずかしそうに俯く鴨太郎と、真っ赤になりながら声を上げる晴明。
二人の反応に土方と道満はニヤリと笑う。
「別に良いだろう?お前達だって仲良くしているのだから」
「そういう問題ではないわっ」
「それより約束の弁当はどうした?」
「話を逸らすな道満!」
ぎゃあぎゃあと痴話喧嘩を始める道満と晴明を横目に、土方は鴨太郎を抱き寄せた。
「…十四郎…っ?」
「俺達も早く弁当にしようぜ」
「…え、」
「せっかくの花見なんだからよ」
ちゅ、と鴨太郎の額にキスをして表情を和らげる。
「…そうだね、十四郎」
嬉しそうに、照れたように微笑む鴨太郎を大事そうに抱き留め、土方は道満と晴明を呼んだ。
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だいぶ遅くなりましたが、花見SSです。
旦那様同士の掛け合いが書けたので楽しかった!笑
鴨太郎と晴明兄様がメインになってしまいましたが…(^^;
焦っている晴明兄様を書けてとりあえず満足です!