memo
2022.8.15 23:12 [Mon]

6.命果てる土地/新たな帝国
 グッドサー先生、服毒死して死体を食わせることでヒッキーたちを殺そうとしたの、ちゃんと服毒以外の死因を作ってて策士だなーと思いました。グッドサー先生の計略でヒッキー君が死ぬのかとハラハラしたけど、ヒッキー君の最後が誰に与えられたものでもなく自ら選び掴み取った死で本当に良かった。
 宗教も国も女王も全て知るか!!!!!という叫び、崇め奉り愛をよこせと、そうすれば救ってやるというものたちから裏切られ続けた人生があったのだと思った。奪われ続け裏切られ見捨てられ続けた人生だったのだろうと思う。そこからきっとあの生き急ぎ感というか、何がなんでもこの人生やりきってやる、謳歌し尽くしてやるという熱情のようなものが生まれたんだろうなぁと思う。何も持たぬ人生、ならばその人生くらいは使い切ってやるという。
 そして求め捧げても与えられない救いは彼に新たなる自我を芽生えさせたのですね。本来心の救いであるはずの国や宗教が、彼にとっては最早敵だった。望めども与えられず、失われていくばかりの人生は、彼に独自の自我と哲学を産ませたのだろうと思う。人生は我が手によってのみ成るものだと。本当そう言う人間好きだよね、アダムナガイティス氏。わかる。
 さて信じることをやめ自らの手のみで生きる世界を探り作ろうとしたヒッキー君。祖国には生きる世界がなかったヒッキー君。彼の本名はなんなのでしょうね。死んでしまった〇〇君。イギリスでは死ぬしかなかったその名前を思うと胸が痛いです。なんにせよ彼は自分の手で自分の人生を全うしたわけです。天晴れ。奪われ続けた人生、その人生そのものだけは、最後まで彼だけのものであり続けたのですね。
 そして極地にて彼は新たな帝国を見出す。魂の帝国。トゥンバックという人知を超えた、獣のようで神でもあるような生き物の魂の一部として生きる世界。大英帝国ばかりが帝国じゃない、この世ばかりが世界ではない。もとよりヒッキー君の倫理は人間の倫理というより獣の倫理に近いものがあったので、よりトゥンバックに神聖さを感じやすかったのかもしれません。(あのシーンのヒッキー君のセリフなにかの物語のようですがわからなかったので何かそれに意味があってのことであれば済みません)「魂が吸われれば聖なるものが約束される」というセリフ。トゥンバックに魂を吸われることで聖なる世界の玉座へ行けると考えたんでしょうか。コーネリアス・ヒッキーであることさえやめた男の、新たにめざす、新たな帝国です。

7.人殺しのライセンス
 ヒッキー君が事故で医者を刺し殺してしまった時、ああここで彼の倫理の防波堤は壊れたのだ、きっとこれがぎりぎり彼が超えていなかった最後の壁(殺人)を初めて超えた瞬間なのだ、と思った、が!!!!違った!!!!!こやつ、コーネリアス・ヒッキー(本人)殺してたわ!!!!!!!!!!!!おい!!!!!!!!つつつつつつつつまり彼の倫理では殺人さえもその範疇であったわけですね?ただあの医師の殺害でヒッキー君の防波堤が壊れたのは間違いないと思うので、彼の最後の防波堤は「殺人そのもの」ではなく「意図しない殺人/善意の者の殺害」であったわけです。なんてこった!!!!!!偶発的に殺したくない人を殺してしまったことからタガが外れ人を殺せるようになったのかと思ってましたが、彼はとっくのとうに自分にとっての人殺しのライセンスを持ってたわけです。
 ここまで倫理が壊れていてよくもまぁ人間としてなおも生きていたものである。ある種その強靭すぎる精神力は本当にすごいし、きっと彼にとって幸いであり最も不幸なことだったのではと思う。精神が強靭なあまり狂うこともできず苦しみ生き続けたのだと思う。よく言うんですけど、狂ってしまえたらいっそ幸せなんですよ。死が救済であるように、正気を失うこともまた救済なのです。まともな精神だからこそ痛みを感じ続ける。
 兵士の一人にいましたね、母親が手が潰れ、痛みから救うためにアヘンを使い、結果そのアヘンに毒されてしまったという子が。阿片に侵されまともな生活ができなくなった母親ですが、それでも笑っていたと、笑うようになったと。つまるところ感じるから辛いのです。感じるから痛いのです。感じないようにして仕舞えば、何も怖いことはありません、何も辛いことはありません。しかしそうして壊れてしまえる人と、壊れることができない人がいる。壊れられない人は思う、ああなってしまえたらどんなに楽かと、しかしああなって仕舞えば自分は終わりだと。救われたい気持ちと堕ちる救済を是としない気持ちにさえ苛まれる。ヒッキー君はまた賢い人だから、余計にいろんなことをわかってしまったり感じてしまって、人よりずっと苦痛を感じて生きてきたのかもしれない。その苦しみの中で人であり続け人生をやりきったヒッキー君に最早畏敬の念が湧く。凄まじい人です。凄まじい精神力です。そら教祖の素質があるわ。
 ヒッキー君が人を殺す時、その全てに意志と意味があるのが本当によかった。コーネリアス本人を殺したことも勿論、(本当に殺してしまうつもりまではなかったかもしれないが)みんなを助けるために医師を刺してしまったこと、恋人が治らない病で苦痛を感じているという不幸な状況を、死という救いを与え更に自分達の口に糊する利益まで得る出来事に変えたこと。
そしてアーヴィング海尉の殺害!!!!!!!!!!!!!!!!ああ、もう本当にびっくりしましたあれ。殺すことは知ってたけどあんなに所作が美しいとは……………………………アダムナガイティス氏、本当に天才です。あの瞬間にヒッキーが物語の悪役として成った、完成した感じがしました。
 瞬間的に、一切の躊躇なく滅多刺しにし、最後はトドメを指すでもなく間もなく息を引き取る海尉を静かに押さえつけるあの動き!!!!あのトドメを刺さない余裕と、死を待つ間のアーヴィング海尉の生死に対する興味のなさ、とんでもないなと思いました。どうせ死ぬので、もうどうでも良いのです。一仕事終えた、くらいのふう、という動きと表情。天才だなぁ、本当に。解釈も天才ながら自分の魅せ方をよく分かってるなこの人……と本当にアダムナガイティス氏が空恐ろしくなりました。
 あとヒッキー君、アーヴィング海尉の遺体の局部をカットしてその尊厳を辱めたの、面白いなぁ私怨も多少あるんだろうなぁと思いましたが何せ合理性が先に立つ男(ギブソン殺害参照)なので、合理性に合わせたら自分の恨みもはらせるルートがあったラッキーくらいの感じなのかもしれませんね。本当に海尉に興味なさそうでしたし、あの時。ただ削いだのが鼻とか耳とかじゃなくて乳首と局部なのは私怨のあるが故だと思ってわらいました。愛しい恋人とのラブラブタイムを邪魔された挙句そのせいで恋人と破局しかけましたからね。極地の白い空にキリストのような面差しの白い顔が映えてとても美しく不思議な映像でした。神聖さのような、幻覚のような、幻日に見る太陽のような、なにか浮世のものとは思えない不思議なコントラストでした。本当に絵になる人ですねぇ……

まだなんか言いきれてないことがある気がしますが、一旦はここまでにしたいと思います。
とんでもねぇ長さになってしまいました。なんとまぁ過去1の長さです。
小説は1000字書くのも辛いのに……………
皆さんも何卒ヒッキー君に狂わされてくれたら嬉しいです。
最後までお読みいただいた方がいらっしゃったら本当にありがとうございます。貴方の航路に幸多からんことを。

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