でてくるひとたち


12mgのいたずら心


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いつもただの覚え書きなんだけれど、だらだら長くなるせいで、途中で照れくさくなって続けられなくなっちゃうんだよね。とか、誰にともなく言い訳をしてみる。今回もまた、途中まで。





玄関のドアを開けると、しんと冷えた空気が頬を撫でる。町が寝静まって静かになった時間から出かけるのは、悪いことしているみたい。いや、実際良くないことしているんだけれど。


待ち合わせはいつものパーキング。わたしが先に着くとゆうが文句を言うから、わざとにちょっとゆっくり身支度をした。


『今日は僕、黒いボックス型の軽に乗っていくから』
って、ゆうからのLINE。

いつも馬鹿みたいに大きな車に乗っているゆうがそんなこと言い出すから、面白くなってくる。それから、LINEで文字になった一人称の「僕」は、1年経つ今でも新鮮で思わず口もとが緩む。


パーキングに着くと、いつもの場所に黒いボックス型の軽。隣にわたしがバックで駐車する間、ゆうは窓を開けてそれを眺めている。可笑しそうに笑いながら。

「見んといてってば」

わたしも窓を開けて言う。冷たい空気が車内に流れ込む。それは浮き足立つ気分と混ざって、渦を巻く。

「いや、バック駐車はほんま上手い。いっつも思うけど。とりあえず見ときたいんや、って感じのバック駐車やからな」

なんて、ゆうの謎すぎるコメントに、お世辞とわかりつつ嬉しくなってしまう自分が単純すぎて嫌になる。


車を降りて、ゆうの車の助手席に乗り込んだ。ゆうが軽に乗っていることに違和感を覚えたのは一瞬で、乗ってみると中は広くって、座席も高くって、なんとなく納得する。

うっすらとたばこの匂い。ダッシュボードに置いてあるアメスピは、いつもとちがう色だった。


「これ、友だちがいらんてゆうた車ねやん。もらった。なんか小さい車久々やから楽しくなってもうてな。ずっとこれ乗ってんねや、最近」

って、本当に楽しそうに言うから、こっちまで楽しくなる。仕事で使う車も合わせて車4台くらい持っているはず。変わった人。


ゆうはいつも通り、あてもなく車を走らせて、わたしが知らないいろいろなことを話して聞かせてくれる。向かう先にも話題にも、ゆうに身を任せているのは心地いい。ずっと運転していてしんどくないのかたずねると、決まって「運転するんは息すんのと変わらんから」って笑ってくれる。


ゆうが思いつきで車を停めたのは、小さな公園の横の駐車場。

「懐かしくない?公園」

ゆうが無邪気に言う。

「懐かしい」

「歩こうな」

午前1時の公園は、本当に音もなくひっそりとそこにある。車から降りて公園内を宛てもなく少し歩く。ポケットに両手を突っ込んで前を歩くゆうの斜め後ろからついてゆく。ゆうが立ち止まったから、並んで立ち止まる。少し水分を含んで冷えた空気を肺に吸い込んだ。

手だけ動かして、ゆうの袖口を掴んでみる。ゆうがこちらに顔を向けたから、ゆっくり時間をかけて首を回してゆうを見た。

暗くてよく見えないけれど、ゆうがいつもみたいに可笑しそうに笑っているのがわかる。暗いのをいいことにわたしまでつられて笑みがこぼれるのも、そのままにした。


ゆうがポケットから片手を出して、わたしの手をつかまえて、そのままぐっと引き寄せられる。顔を覗き込まれるようにしてゆうの顔が近づく。

そのまま目を閉じると、ゆうの唇がわたしのに触れる。

長くもなく短くもなく。息をするように自然にキスをする。寒くてこわばっていた体からふっと力が抜けるのがわかった。

唇が離れてから、目を閉じてさっきのキスを反芻する。こういう瞬間がしあわせ、かもしれない。目を開けると、ゆうがこっちを見ていた。

「どないしたん?」

語尾を上げずにたずねられる。どうしてそんなに甘く、柔らかく喋るの?

返す言葉は見つからないから、曖昧な表情で首を横に振った。


わたしの手首を掴んでいたゆうの手に力が入るのがわかった。「ん?」と思って、表情をうかがうと、良くないこと考えてるってわかる。ほんのちょっとしたことなのだろうし、うまく言い表せないけれど、目と口もとでわかるの。

よのもとくんもあの日、この表情をしていた。

無意識にそのことが、びっくりするくらい強く頭に浮かんだ。今はゆうと一緒にいるのに、ね。

それを振り払うように、くすくす笑いながら、車の方を指さす。戻りたいんでしょう?

ねえ。

何にもとらわれずにこんな馬鹿なことやっていられることが楽しい。いつもはうんざりする名前のつかないこの関係も、たまには良く思えるよ。


12/03 21:43
ぶっくまーく






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